堕とされた母 ⑥

会話はなかった。沈黙を続ける佐知子に、達也もあえて話しかけようとはせず、本を読んでいる。勿論、読書にいそしむポーズで、佐知子をうかがっているわけだが。
長い時間を洗面室にこもって。出てきた時に、佐知子の眼は赤かった。
泣いたと、はっきりわかる眼で、佐知子は達也を見ている。
決まった場所、いつもの椅子に座って、達也の横顔を見ていた。
見つめる、というには、その眼色も表情もボンヤリとしていたけれども、視線が達也から外されることはなかった。
午前中のように、そわそわと落ち着かぬ素振りを見せるでもなく。
なにか言いたげに、唇がわななくということもなかった。
ただ佐知子は、力なく肩を落として座りこんで、達也を見ていた。
そんなふうに、無為に時間が過ぎて。
達也にすれば、アテが外れたというところである。
佐知子から伝わってくるのは、本当にもう、なにをどうすればいいのか解らない、といった放心の気配だった。
(……しょうがねえなあ)
どうやら、佐知子にとって先ほどの行動は、こちらが思う以上に重大なものであり、それを拒まれたショックも大きかったのだと理解する。
(それにしたって、ガッツが足りねえや、ガッツが)
とにかく、達也としては、今日のうちに決着をつけるつもりになっていたわけで。
予定が狂うのは、はなはだ面白くないのだった。
(とりあえず、少し、つついてみっか)
まったく世話がやける…と内心にひとりごちて、行動に出る。
ふぁ……と、生あくびを噛み殺して、達也は読んでいた本を閉じた。
「……なんか、眠くなってきた」 目をショボつかせて、呟く。
「少し、寝るね」 佐知子にそう言って、ベッドを倒した。
「佐知子さんが帰るときには、起こしてね」
「……えっ…?」 ここで、ようやく佐知子は反応をかえして。
達也の言葉の意味を理解して、慌てて立ち上がった。
佐知子の勤務時間は、残り二時間ほど。
その時間を、達也は午睡に費やすというのだ。
眠って、そして、勤務の終わった佐知子に、さよなら、また明日と挨拶して。
それで、佐知子はこの部屋をあとにして。達也から離れて。
帰宅する。
そして……昨日と同じ夜を過ごすことになる……。
「………………」 フラリと、佐知子は足を踏みだした。
ベッドを平らかにして、枕を直して、すっかり寝る体勢を作っている達也の傍らに立つ。
「……なに? 佐知子さん」
「………………」 佐知子は答えずに、無言で達也を見下ろした。
頬を強張らせ、唇を引き結んで。達也を睨んでいた。
達也は静かな顔で、佐知子を見上げる。
そんな奇妙な対峙が、数瞬あって。
不意に、佐知子の怒りの表情が崩れる。
泣くように顔を歪めて、震える唇から声がこぼれた。
「……達也くんは……ひどい……」
「どうしてさ?」 落ち着いた声で、達也が訊く、と。
佐知子は、身体を投げるようにして、達也の上に圧し掛かった。
ベッドを重く軋ませながら、達也に飛びかかって。
両手でしがみついて、その柔らかな身体を押しつける。
「……ひどい……ひどい……」 達也の胸に顔を埋めて、切れぎれにそう繰り返した。
「だから、それじゃ、わからないよ」
「うそっ、嘘よっ」
佐知子の重みを受け止めて、優しく宥めるように達也が言うのにも、
激しく頭をふって、子供じみた否定を返して。
顔を上げた佐知子は、涙の滲んだ眼で達也を見やって、
「……わかってるのでしょう?わかってるくせに…」
恨みを吐いた唇が、そのまま達也の口を求めて。
両の腕で達也の首に抱きついて、佐知子は自ら仕掛けたハードなキスに溺れこんだ。
タップリと達也の口舌を味わい、唾を啜り上げて。
糸引きながら離れた紅唇で、荒い息をつく。
「……それでも」 やはり呼吸を軽く弾ませながら、それでも達也の声は冷静で、
「ちゃんと、言ってもらわないとね」
「…………ひどい…わ……」 もう一度だけ、そう呟いて。
しかし、佐知子のけぶる瞳には、諾いの色があった。
ギュッと、達也の首を抱く腕に力をこめて。
頬を擦りよせることで、達也の眼から顔を隠して。
そして、佐知子は囁いた。
「………して……」
「なにを? なにをしてほしいのさ?」
「……アァ…」
声音だけは甘く、意地悪く聞き返す達也に、佐知子は切ない嘆声を洩らして、
また頭を横にふった。
死ぬような思いで、その言葉を口にしたのに、まだ赦してくれないのか、と。
しかし、ついに心の真実を吐き出してしまったことで、血の滾りと肉の昂ぶりは一段高い次元へと押し上げられてしまっていたから。
「……して……抱いて……」
せくり上がる情感に震える声で、佐知子は、はるか年下の若者に乞い願った。
熱い乳房を達也の胸に押しつけ、太腿を達也の脚に擦りよせて、早くと誘う。
早く、狂熱の中にすべてを押し流してくれと願ったが。
「抱く?セックスするってこと?」 達也は、そうしてはくれない。
聞くまでもないことを聞いて、佐知子の羞恥を煽って。そのくせ、佐知子を抱いた手は優しく背や腰を撫でて、ゾクゾクとした快美を走らせるのだ。
「それって……また、僕のためなのかな?」
“また”という達也の言葉に、佐知子の肩がこわばる。
おずおずと顔を上げて、不安を宿した眼で達也を見た。
「……ちがう…わ……」 小さく顔を揺らしながら、怯えるように言った。
昼間の自分の失策を持ち出されたことで、このあとの展開までが昼と同じ轍を
踏むのではないかと、怖れたのだった。
「…ちがうの……私が……」 その恐怖が、佐知子に必死の気概を掻きたてた。
ああ……何故、あんな誤魔化しをしてしまったのだろうか?
あんな欺瞞、“達也のため”などと……。
「私、が…してほしいの……抱いてほしいのっ」 そう、求めていたのは自分なのだ。
心の奥深くの真実を曝して。
佐知子の胸を満たしたのは解放の喜びだった。
「私が、してほしいの、達也くんに、抱いてほしいって、私が」
堰を切ったように感情が溢れ出す。佐知子はうわごとのように熱っぽい言葉を繰り返した。
「……でも、ここは病室だよ?」
なおも無粋な問いを達也はかけたが。しかし、その声色には、佐知子へと距離を詰める機微がうかがえて。
その証左のように、佐知子の腰にまわしていた手が滑って、張りつめた豊臀を撫でまわした。ネチっこく、はっきりと淫らな蠢きで。
「いいの? 病室でそんなこと?」
「……か…かまわない…わ…」
甘く鼻を鳴らして、愛撫される臀をくねらせながら、佐知子が答える。
いまさら、ここが病室であることへの拘泥など、ほとんどなかった。
ここは、この隔離された部屋は、自分と達也ふたりだけの場所。
いまの佐知子にとって重要なのは、その事実だけだった。
「いいの、ここでして……私を、達也くんのものにしてしまって」
昂ぶり続ける心のままに、赤裸々な言葉が勝手に口から迸る。
それによって、血肉がまた滾りを強めていく。
「本当に、いいんだね?」 達也が訊いた。これが最後、という響きをこめて。
即座に佐知子はうなずく。何度も。達也のその気を逃すまいとするかのように。
「……わかった」
おもむろに達也は、佐知子の柔らかな身体を抱いた腕に力をこめて、自分の上に乗せ上げるようにして。そして、両手で佐知子の双臀を掴みしめた。
ギューッと、強烈な把握で、タップリとした臀肉に指を食いこませる。
「アアァッ」
歓悦の悲鳴を上げて、佐知子は達也の体の上で背を反らせる。
「僕も、もう我慢しない。いま、ここで、佐知子さんを僕のものにする」
そう宣言して。達也はさらに、両手に掴んだ熟れ肉を攻める。
ギリリと十指の爪をくいこませて、揉みたくり、こねくりまわした。
「アッ、あぁ、んあっ」
「この大きな尻も。デカいオッパイも。それから、オマ○コも。 佐知子さんのエッチな身体、全部、僕のものにしちゃうからね」
「アッ、うっ、あ、達也、くぅん…」
身悶える佐知子を見つめる眼には、猛禽のような獰猛で冷酷な光。
はじめて本当の牙を剥いたような達也の烈しさが、佐知子の背筋を痺れさせた。
卑猥な言葉も、臀肉を痛めつけるような荒々しい愛撫も、達也がついに自制を解いて、激情をあらわにしたゆえだと思えば、どよめくような歓喜だけを佐知子に掻きたてる。
そして。太腿の付け根のあたりに感じる、硬い隆起。
今度こそ、自分の肉体を蹂躙するための欲望を充填しはじめた、若い牡の凶器。
「アアァ……」 目眩むような昂奮が、総身の肉を震わせる。
「し、してっ、私の身体、全部、達也くんのものにしてぇっ」
いま、この瞬間の、ただひとつの願いを叫んで。
佐知子は、達也の唇にふるいついた。
ピッタリと唇を合わせて、舌を絡めあい、唾液を交換しながら。
重なったふたりの体が横へと転がる。
達也は、熱く生臭い息を吐く佐知子の唇から口を離すと、体を起こした。
ギブスの左足が、わずかに動きを不自由なものにするが。
それを気にかけるべき佐知子は、達也の怪我のことなど念頭から消し去って。
豊満な肢体をしどけなく横たえて、荒いあえぎをつきながら、
淫情に潤みきった眼で、若い情人を見上げていた。
達也の手が、大きく上下する佐知子の盛り上がった胸へと伸びた。
白衣の襟を掴んで、一気に引きはだける。
「アッ…」 白衣のボタンが千切れ飛び、佐知子が竦んだ声を上げた。
露わになった胸肌と、白い清楚なブラジャーに包まれた大ぶりの肉房を達也は眺め下ろした。手に入れた獲物を吟味する眼だ。
……佐知子から、交接を乞い願う言葉を引き出したことで、達也のゲームは終わった。
同級生の美しい母親を篭絡するというゲームは終わって。
あとは、この艶麗な年増美女を、好きなように弄ぶだけである。
まずは、ゲームの締めくくりとして、圧倒的な勝利の祝いとして、その爛熟の肉体を、思うさまに貪り犯しつくす。
この後も、まだ佐知子に対する芝居をやめる気はない。この哀れで愚かな中年の未亡人に狂い咲きの夢を見させたまま、遊んでやるつもりだったが。
ま、かまわないだろう、と。達也はタガを緩めることを自分に許した。
もう、この女は、すっかり俺にハマってるし。一発ブチこんでやれば、決定的だし。
その後は、ズブズブ、ハメまくってやればいいだけのこと、と。
倣岸な自信は揺るぎのないものだが。その思考が急にぞんざいになっていたのはさすがに鬱積した欲望が荒れ狂いはじめていたせいでもあったし。
もう奸智をしぼる必要もないわけだった。
ゲームは終わって。あとは野放図に気ままに、手に入れた玩具で遊ぶだけだ。
飽きるまで。
……しかし、そんな緩んだ思考をよぎらせて、欲望への制御を解きながらも。
佐知子の純白のブラジャーに指をかけて、白衣同様に引き剥ぐように外した、達也の荒っぽさは、性急な昂ぶりからではなくて、
(これくらいのほうが、喜ぶだろ)
という冷笑的な洞察によるのだから。やっぱり異常である。
佐知子は、また小さく悲鳴を上げて。しかし、達也を見上げる濡れた瞳には、その荒々しさを歓迎するような、陶酔の色が浮かんでいた。
つまり、まったく達也の予測通りの反応だった。
達也らしからなぬ乱暴さも、自分を求める想いの強さのあらわれだと、幾多の障壁を乗り越えて、ついに結ばれることへの思い入れの表現だと、頭の天辺まで浸りこんだ幸せな夢の中で、勝手に納得して、歓喜しているらしかった。
裸にされた胸を隠そうなどとは考えもせず、すでにジットリ汗ばんだ胸肌と、巨大なふたつの肉果を、達也の眼に晒している。双丘の頂は当然のように尖り立っていた。
達也は手を伸ばして、巨きな乳房を握りしめた。この熟れきった豊乳は、達也のものだ。
佐知子自身がそう言ったのだ。
手に余る巨大な肉塊に、広げた指を食いこませて。達也はギューッとキツく握りしめた。
「ああぁ……達也くん、そんなにしたらぁ……いっ、アアッ」
苦痛に眉を寄せる佐知子だったが、嬲られる乳を逃がそうとはしなかった。
その声も、甘く鼻から抜けている。
「僕のものなんだろ? この大きくて柔らかいオッパイは」
なおもギュッギュッと強い力を送って、佐知子を啼かせながら、達也が言った。
「だったら、どんなにしても、いいはずだよ」
「……アアァ…」 上気した佐知子の面に、酔いが色濃くなった。
“達也のもの”という表現が、ことのほか佐知子には効いた。
“達也のもの”である自分にこの上ない幸福を感じて、それを完全なものとしてもらうことを、待ち焦がれている。
(罪な男だぜ、俺も) 驕った述懐は、まあ、まったく正しくはあるわけだが。
いうまでもなく、達也と佐知子では“自分のものにする(相手のものになる)”という言葉で表現される状況に、大きな違いがあった。
それを、佐知子が知るのは、もう少し先のこと。
いまの佐知子は、ただ、達也との関係が決定的なものとなる瞬間、この奇妙な“恋”が成就するときへの期待に、熱い身体を震わせながら、玩弄の手を甘受するのだった。
淫情に蕩けた眼は、うっとりと達也を見つめ、荒っぽい揉みたてをうけて、かたちを歪める己が乳房を見やった。
すすり泣きに似た低い啼泣が、喉を震わせ続けている。
立ち昇る汗と女の体臭が、強く濃くなっている。
衣擦れの音をたてながら、皺だらけのシーツの上を臀がくねる。
両の太腿を擦り合わせる動きで、白衣の裾はたくし上がっている。
「……アァ……達也くん……」 達也の手の蠢きは、乱暴な中にも狡猾な巧緻さを潜めて。
焦らされ続けた肉体に、たまらない愉悦を与えてくる。
肉が溶けるような乳房の快感を、しかし佐知子は怖れた。
このままでは、敏感な乳肉への愛撫だけで、気をやってしまいそうで。
いまの佐知子が求めるのは、そんな軽い悦楽ではなかったから。
逆手にシーツを握りしめて、快感に耐えていた手が動く。
はっきりとした意志に従って、達也の股間へと。
「……あぁ……ハァ……」
硬い隆起を確認して、安堵の息が洩れて、すぐに恍惚たる嘆息に変わった。
達也の欲望は、まだ完全に漲ってはいない。それは、佐知子にはわかったけれど。
それでも、すでにして、甘い屈従の心を喚起せずにはおかないような量感を掌に伝えてくるのだった。
(……はやく……これで……)
いやます昂ぶりは、そのまま達也を握りしめた手の動きに表れる。
この数日間に達也によって仕込まれた淫猥な技巧を、手指に演じさせれば、牡肉はグッと硬さと膨張を増した。その反応が嬉しくて、汗ばむ手に感じる熱さと逞しさが縋りつきたいほどに愛おしくて。
追いつめられた官能が、佐知子を、さらに大胆な行動に出させる。
やはり、シーツを掴んでいた、もう一方の手を滑らせる。
白いストッキングの太腿の半ばまで捲くり上がった、白衣の裾へと。
ギュッと薄い布地を掴んだ手が、一瞬だけ躊躇しても。
思い止まるには、佐知子の心も身体も熱くなりすぎていた。
「……達也…くん……」
声が震え、掠れたのも、羞恥よりは灼けつくような昂奮のせいであるようだった。
手がそろそろと動いた。腰のほうへと。
ストッキングに汗を滲ませた太腿が、その息苦しいほどの肉づきのすべてを露にする。
その下の、豊かな腰を包んだ瀟洒なショーツも姿をあらわした。
露出、というには、まだ二枚もの着衣を残してはいたけれど。
それでも、自らの手で白衣を捲り上げて、ムッチリとした下肢を
さらして見せる佐知子の姿態は、息をのむような凄艶さが漂った。
達也も、マジマジと凝視する。
「……ああぁ……」
視線を感じて、佐知子が恥じいるような声を洩らす。ブルッと太腿が戦慄いて、熟れ肉が波打った。
それでも、白衣の裾を捉えた手は、腰の位置に留まったままだった。
「佐知子さん、いやらしいね」 達也が、からかうように言った。
「自分で、めくっちゃって。すごく、いやらしい格好だよ」
「……いやぁ…」 泣くような声を洩らして、佐知子は首を左右にうちふったが。
「早く、そこに触ってほしいってことだよね?」
達也に訊かれると、こくりと小さなうなずきをかえした。
「今日の佐知子さんは、素直だね」
その御褒美だとでもいうように、達也にしてはアッサリと佐知子の求めに応じて、そこへと手を伸ばした。
「ヒッ…アッ…」 スッと内股を撫でられて、佐知子は大袈裟なほどの感応を示して
ビクビクと腰を戦慄かせた。裸の胸が揺れる。
「これでいいの? ストッキングとパンティの上から触るだけで、いいのかな」
くすぐるように指先を這わせながら、達也が訊いた。
「ぬ、脱がせて」 また素直に佐知子は求めて、自然に両肢の開きが大きくなった。
「そうだね。脱がないと、僕のを佐知子さんの中に入れられないもんね」
「……アアァ…」 この先の行為を口にして、佐知子の情感を煽りたてて。
達也は、太腿の肌に貼りついたストッキングに爪をかけて、繊維に裂け目を作ると、指先を突っ込んで、一気に引き裂いた。
「アアッ」 佐知子が悲鳴を上げる。
下肢を覆った白いパンストに大きな穴が開いて、佐知子の蒼白いような内腿の肌が露わになった。
「フフ…」 その煽情的な光景を愉しみながら、さらに達也は指を滑らせる。
プツプツと微かな音をさせながら、繊維の裂け目が広がって、深く切れこんだ腿の付け根が晒され、白いショーツに覆われた恥丘が姿を見せる。
「ここは、もっと広げないとね」
そう言って、達也は両手を使って、パンストの股座の穴を広げた。
「あぁ、達也くん、こんな…」
かたちばかりの抗議を口にして、佐知子は達也の乱暴な行為から逃れようとはしなかった。
「フフ……、すごく色っぽいよ、佐知子さん」 仕上がりを検分して達也が満足そうに呟く。
佐知子の片肢は、膝から上がほとんど露出して。汗ばんだ雪白の肌を覗かせる破れ目は股座にまで繋がって。純白のショーツのプックリとした盛り上がりまで露わになっていた。
「すごく、いやらしい。そそられちゃうな」
「……アァ……こんな…恥ずかしい……」
チラリと、自分の無惨な姿を一瞥して、佐知子が恥辱の声を洩らす。
腹まで白衣をはだけて、下肢には引き裂かれたストッキングを纏いつかせた己の姿が、裸にされるよりも、恥ずかしいように思える。
しかし、その無惨さが奇妙に胸をどよめかせもするのだった。
なによりも、握りしめた手の中で、達也の肉体がグッと力を増していくことが佐知子の脳髄を痺れさせた。
「アヒッ、アアッ」
達也の指が、ショーツの盛り上がりを撫でて、佐知子に甲高い声を上げさせた。
白い下着は、派手さのないシンプルなデザインのものだったが、それなりに上質そうな品である。明らかに達也の目にふれることを意識しての身拵えは、ジットリと汗に湿って、肌にはりついていた。
布地越しに濃密な叢の感触をなぞったあとに、達也の指は中心部へとすべっていった。
「グッショリだよ。佐知子さん」
「ああ……いやぁ…」
達也の言うとおり、ショーツの股布の部分は、色が変わるほどに濡れそぼっていた。
軽く押しただけで、達也の指先は、沁み出した淫汁に濡れた。
立ち昇る“牝”の臭気が強くなる。
「すごいな」
感心したように呟いた達也は、ショーツの上縁を掴むと、グイと強く引き上げた。
股布が食いこんで、恥丘の肥沃な肉づきを強調し、秘苑のかたちまでが濡れた薄布ごしにクッキリと浮かび上がる。
「あ、やっ、達也くんっ…」
「フフ、佐知子さんのかたちが、ハッキリわかるよ」
「いやぁっ」
言われなくとも、繊細な部位に感じる圧迫で、佐知子にもそれはわかっていた。
思わず、白衣の裾を押さえていた手で達也の手を掴む。
淫らな徴候で汚してしまった下着を見られ、その上から嬲られるのは、直接肌に触れられるより、辛く恥ずかしかった。
スンナリと達也は佐知子の制止に従って、ショーツを引っ張っていた手を離したが。
今度は、揃えた二本の指で、ピッチリと貼りついた布地の上から、濡れにまみれた部分を、強く擦りたてた。
「アッ、アアッ」
「すごいな。どんどん溢れてくる」
たちまち嬌声を断続させて身悶える佐知子の股間を覗きこむようにして達也が言ったとおりに、指の嬲りを受けて噴き出した新たな蜜が、濡れジミを広げ、ジュクジュクと沁み出てくる。
それを面白がるように玩弄を続ける達也の手指の動きは、いつもより荒っぽかった。
しかし、それがいまの佐知子には、強い刺激となって愉悦を沸騰させる。
「アッアッ、達也、くんっ、アアッ」
下着の上からもハッキリとわかるほどに膨れた肉芽を、グリグリと押し揉まれて、高い声で囀りながら、縋るように達也を見つめる佐知子。
「佐知子さんが濡れやすいのは知ってたけど。今日は特別だね」
「あぁ……達也くん、だからよ、達也くんに触れられてるから、こんなに、私」
実際、達也の手に触れられるまでは、自分がこんなに濡れやすい体だとは思いもしなかった佐知子である。
むしろ、性感の薄いほうだと思いこんでいた自分の肉体。眠っていた感受性を掘りおこしたのも達也だ。こんな愉悦があることを教えてくれたのが。
それを思うたびに、佐知子の胸には達也への甘い屈従の意識と、こよない愛しさが溢れて。
「達也くんだから……達也くんだけよ」 繰り返す声と見つめる眼色に、切ない熱をこめる。
「うれしいよ」
簡単に達也は答えた。口元に浮かんだ笑みも、冷ややかとさえいえる。
しかし、そんな倣岸で不敵な表情が、確かに、ひどく魅力的ではあるのだった。
普段の、穏やかで爽やかな顔以上に、見るものを魅了し呪縛する力に満ちていて。
すでに、その魔力に絡めとられている佐知子は、潤んだ眼でその冷たく美しい笑みに見惚れて。胸を熱くし、股座を濡らす。
「……ねぇ…」 甘く、媚びた声で、呼んだ。
「…脱がせて……達也くん…」
達也の手で、熱く濡れた女を包む薄布を奪ってくれと訴える自分の破廉恥さを自覚することも、いまの佐知子には昂ぶりを強めるだけだった。
「脱いで……そして、僕のをここに入れてほしい?」
“ここ”をグショ濡れのショーツの上から、指で押しこみながら、達也が訊くのにも。
佐知子は、素直に、淫情に火照った顔をうなずかせる。
「でも、佐知子さん、僕のが怖いんじゃなかったの? 大丈夫?」
「……怖い、わ……」 念を押す達也に、これも正直に心情を吐露して。
佐知子は、握りしめた硬直へと視線を向けた。
どれほど昂ぶっていても、ケタ外れな巨根への恐怖は残る。
本当に受け入れられるのだろうか? と、年甲斐もない危惧を抱かずにはいられない。
しかし、恐れは、そのまま未知の快楽への期待でもあった。
達也は言っていた。それは、ここまで教えられた愉悦より、ずっと深く強いものだと……。
「……怖いけど……でも…」
「それでも、僕とひとつになりたい?」
「そうよ、そうなの、だから」 渇望を、達也が、ていのいい言葉にする。
それに飛びついた佐知子は、いよいよせくり上がる激情に切迫した叫びを上げた。
「わかった」 達也は、佐知子の背の下に腕を差しこんで、優しく抱き起こした。
軽く唇を合わせるだけのキスを与えて。
「……脱がせてくれる?」 佐知子の耳に、そう囁いた。
小さくうなずいて、固い唾をのみ下した佐知子は、達也のパジャマの腰を両手で掴む。
両脚を投げ出して後ろ手をついた達也が、尻を浮かせるのに合わせて、下着ごと、膝まで引き下げた。
「……あぁ…」 現れるのは、引き締まった太腿と。牡の象徴。
何度見ても、そのたびに佐知子の肝をひしがずには置かない、達也の男性だが。
巨大な鎌首をもたげたその姿が、いまはひときわ獰猛な迫力を見せつけるように佐知子には感じられた。
「佐知子さんも脱いで」 達也に命じられて、佐知子はほんの少しだけ躊躇を見せた。
自分の手で……ということに、いまさらな羞恥を感じて。
しかし、逡巡は長い時間でもなく、佐知子は自分の腰へと手を伸ばす。
脱がなければ、達也を迎えいれることは出来ないのだから。
ベッドの上に膝立ちになって、ストッキングの残骸を捲くり下ろす。
交互に膝を浮かせて、最後には引き剥ぐように脱ぎ捨てた。
生脚を晒して、もう一度、皺のよった白衣の裾に手を差しこんで。
さすがに、頬に新たな血を昇らせながらも、一息に引き下ろした。
白い薄布が小さく縮まりながら、膝まで滑り下りて。
覆うものがなくなった股間は、この時はまだ、白衣の中に隠れていたのだが。
膝を抜くのに、動きを抑制する意識が強すぎて、バランスを崩してしまう。
前のめりに倒れかかって、慌てて片手をついたが。
四つん這いで、尻を後ろに突き出したかたちになって。たくし上がった白衣の裾から尻タブが覗いてしまう。
すかさず、達也の手が伸びて、白衣を腰まで捲くり上げた。
「あっ、イヤッ」
佐知子の羞恥の声にはお構いなしに。しらじらと曝け出された巨きな熟れ臀を掴み、撫でまわして。さらには深い切れこみの下の暗い秘裂へと指を挿しこんだ。
「ヒィアッ、ダ、ダメェッ」
期せずしてとった姿勢と、尻を剥かれる恥ずかしさに、佐知子が悲鳴を上げるが。
膝に絡んだ下着と、今日はじめて達也の指を迎えいれた女肉から伝わる鮮烈な刺激に抗いの動きを封じられてしまう。
「アッ、や、ああぁん」
達也が挿しこんだ指を抽送すれば、思わず噛み締めた愉悦の甘さに、腰がくねり、裸の臀が揺れ、重たげに垂れ下がった豊乳が揺れる。
だから、達也がアッサリと指を引き抜いたときには、佐知子は思わず惜しむような声を洩らして、ふり仰いだ。
達也は、佐知子の中から引き抜いた指、ベットリと蜜にまみれた指を眺めて、
「佐知子さんの準備は出来てるみたいだね」 そんな言葉でまた佐知子を恥じ入らせてから、
「僕も、もう我慢できない。早く、佐知子さんとひとつになりたい」
熱っぽく、逸る心を見せて、そう言った。
その思いは全く同じであったから。横座りに体勢を崩し、白衣の裾を戻して、乱れた息を整えていた佐知子は、無言で小さくうなずいた。
膝に絡んだ下着を、ようやく爪先から抜きとって。素早く丸めると、先に脱いだパンストとまとめて、背後に隠すように置いた。
いよいよ、これで、本当に準備は整ったわけだが。
どうすれば……と、惑うようすで、佐知子は、おずおずと達也を見やった。
隆々と巨大な肉根をおっ立たせて、脚を伸ばして座った達也は、佐知子へと片手を差し伸べた。こちらへ、と招くふうに。
達也の意図、どのようなかたちで交わろうとしているのかを悟って、佐知子は、えっ? と硬直してしまう。
つまり、このまま跨ってこいというのだ。
それは佐知子にはまったく意想外なことだった。
そんな体位など経験がない。というか、佐知子は正上位以外での交わりをしたことがない。
セックスにも多様なスタイルがあることくらいは、さすがに知っていたが、自分には無関係なことと考えていた。
だから、達也との交わりも、当然自分にとっての唯一のかたちを想像していたのだった。
抱き合って、見つめあって、達也の重みを感じながら。
愛を囁きあいながら、優しく睦みあう。そんな行為を思い描いていたのだ。
「……た、達也くん…?」 困惑のままに、佐知子はうかがうように呼んだ。
達也は、少し苦笑してみせて、
「脚が、こうだからね。これくらいしか…」 と、ギブスをはめた左足を指差した。
「…あっ」 佐知子は達也の言わんとするところを理解する。
「こんなのは、イヤかな?」
「えっ?あ、あの…」 訊かれても、答えに困ってしまう。
確かに、ギブスした足では、とるべきかたちが制限されることはわかる。
この体勢が、達也にとって一番無理のないものであることも理解できる。
しかし、だからといって、素直に達也の指示に応じられるかといえば……。
「……イヤじゃ…ない、けど……」 とても出来ないと思いながらも言葉はあやふやになる。
イヤだ、と忌避を示すことが、怖かった。
「そ、そんなふうに、したことが、ないし…」
「大丈夫だよ」 手を差し出したまま、達也は安心させるように言った。
「…………………」
結局、佐知子は、その手をとった。おそるおそる伸ばした手で、達也の手を掴んだ。
惑い、竦みながらも、ここで終わるという選択肢は佐知子にはなかった。
握った手を強く引かれて、尻が浮き上がる。
膝立ちになって、達也へといざり寄る。
「……さあ」 達也は、佐知子の腰に手を添えて、優しく促した。
「…ど、どうすれば…?」
「立って、僕の腰を跨いで」
「……………」 ゆっくりと佐知子は立ち上がる。ベッドの上で。
膝は曲がって、背を丸めた半端な立ち姿になって。
縋りつくように手を握ったままの達也を、気弱く見下ろす。
生身の脚が、やけにうそ寒く感じられた。すでに下着さえ着けていないことがいまさらに強く意識されて、佐知子は白衣の裾を押さえた。
「そのまま、僕に跨ってきて」 あくまで優しい声で、達也は指示を繰り返す。
「……………」 逡巡、というよりは覚悟を決めるための間があって。
そろそろと、佐知子の片足が浮く。危なっかしいバランスをとりながら、足先が横へと流れて。達也の両脚を跨いだ向こうに、着地する。
「……あぁ…」 堪えきれぬ羞恥の息を、佐知子は洩らす。
脚を大きく開いて、達也の体を跨いだ、自分のあられもない姿を思って。
しかし、当然ながら、問題は、この後の行動なのだった。
「後は、わかるでしょ?」 達也は、そう言った。今度は明確な指示を出さなかった。
「………………」 確かに、ここまで来れば、後はどうすればいいかは、佐知子にもわかる。
このまま……腰を落としていけばいいのだ。
達也の上に。達也の股間に屹立するものの上に。
佐知子は、視線を落として、“それ”を見やった。
天を突く、といった勢いで聳え立つ、達也の男性。
佐知子の眼には、やはり巨大な肉の蛇に見えた。
凶悪に張りつめた鎌首が、佐知子を睨みすえて。
チロチロと舌を出して差し招いている、という幻視。
達也は、もう指示を出さない。
逡巡する佐知子を促すこともせず、無言で見上げている。
すなわち、佐知子には、なんの言い逃れの余地もなく。
自らの意志で。この先へと踏みこまねばならない。
……本当に、いいのか?
もう一度だけ、その自問が脳裏に響いた。
亡夫と裕樹の顔が、胸をよぎる。
……いいわけがない。こんなことが、赦されるはずがない。
そう断じて。

Last Update : 2008年12月04日 (木) 7:41