堕とされた母 ⑧

苦悶にも似た表情に顔を歪めて、達也の肩にギリギリと爪をたてながら。
また食いちぎるような女肉の締めつけに襲われて、達也は歯を食いしばって堪えた。
佐知子の肉の反応は、快楽を重ねるごとに激烈に濃厚になっている。
達也のものを引きずりこもうとするかのような蠢動に、一瞬だけ誘いこまれそうになってしまった。
(やっぱ、溜まってるなあ…)
再びの硬直と痙攣のあとに、グッタリと胸に崩れてきた佐知子を抱きとめながら、達也は、内心に呟いた。それもそのはずで、こんなに長い間、女を断ったのは童貞切って以来だ。佐知子の篭絡という目的に専心していたから、気にしていなかったが、体は正直である。
まあ、若いチ○ポの味はタップリと教えてやったし、あとは派手にブチまけるだけだ。
(中出しの良さを思い知らせてやって。それで、今日のところは終了、と)
残りのカリキュラムを確認して。
達也の肩に頭をもたれてまだ小刻みな震えを走らせている佐知子の髪を優しく撫でてやる。
乱れた黒髪は汗に湿って、強い香を放っている。ナース・キャップはとうに外れ落ちて、
達也の脚の間に転がっていた。
「……佐知子さん、イッちゃったんだね」
「……う……あ……」 佐知子が、ノロノロと顔を傾けて、虚ろな眼を向けた。
「そんなに、気持ちよかった?」
「…あぁ……達也…くぅん…」
頬を撫でる達也の手に、甘えるようにスリスリして、鼻から抜ける声で呼んだ。
その態度にも声にも、潤んだ眼の表情にも。
母親ほども年上の女らしい貫禄は、微塵も残っていなかった。
「…私、わたし、こんな…こんなの…」
ただ征服された女の媚びとおもねりだけを滲ませて佐知子は甘美な屈服の感情を告白した。
「こんなに気持ちいいの、はじめて?」
「そう、そうなの……こんな……はじめて」
「でも、まだだよ」 そう言って、達也は軽く腰を揺さぶった。
「んっ、アアッ」 途端に佐知子はいきみ声を上げて、弛緩していた体に緊張がよみがえる。
「ね?僕はまだ終わってないし。もっともっと、佐知子さんを気持ちよくしてあげる」
キュッとしこった佐知子の豊臀を掴んで。ゆっくりと円を描かせる。
「んああっ、たっ、達也くん、」
連続して快楽を極めた媚肉を攪拌される、強すぎる快感に身悶えて。
しかし、佐知子は達也にしがみつく腕の力を強くした。
「ど、どうにでもしてっ」 たちまち火勢を取り戻す肉欲の炎の中から、叫んだ。
「私の体、達也くんのものだから、だから、もう、どうにでも、達也くんの…アアアッ」
「うれしいよ。今度は一緒に天国に昇ろう、佐知子さん」
「アアアァァ……」
熱っぽく耳に吹きまれただけで、佐知子の厚い腰の肉置は、ほとんどアクメを迎えたような痙攣を走らせる。
至福が、佐知子の胸を満たす。
それは、さらに肉をトロけさせ、血を滾らせる。
「アッ、アアハッ、ふんっ……んはあっ」
暴れ馬のような勢いで、佐知子の白い巨臀が踊り狂う。
際限なく高まり続ける愉悦に鞭打たれて、その蠢きを、どんどん貪婪に卑猥にしながら。
「いいっ、すごいっ、気持ちいいっ、アヒイッ」
ヨガリの叫びと汁を、とめどなく溢れ出して。
「すごい…のっ、達也くんの、いいのっ」 快美を告げる科白もどんどん露骨になっていく。
「そんなにいいの? 僕のオチンチン」
「いいのっ、達也くんの、オチンチン、すごいっ」
口移しのままに、そんな言葉まで使って。しかし、それは心底から、突き上げられる臓腑の底から噴き上がる礼賛だった。
「すごい、達也くん、すごい」
うわごとにように佐知子は繰り返した。そうとしか言えなかった。
「佐知子さんも素敵だよ。僕のを、すごく締めつけて。すごく気持ちのいいオマ○コだ」
「……アアアァァ……」 佐知子の中に法悦が膨れ上がる。
若く逞しい牡に愛され貪られることの歓喜。
女であることの悦び。
「好き、好きぃっ」
歓悦の涙を流しながら、達也に、この至極の幸福を教えてくれた愛しい男にすがりついて、唇を求めた。
ああ、なにを迷っていたのだろうか、自分は。
この無上の喜びを手に入れることを、何故、あんなにも躊躇っていたのだろうか?
愚かだった己への怒りさえ、胸にわかせて。
愚かな逡巡で無駄にしてしまった時間を、取り戻そうとするかのごとき激しさで佐知子は、達也の口舌と肉体を貪った。
汗みどろの豊満な肢体が、狂おしくのたうつ。その肉の中で沸騰し続ける快楽が、限界に近づいていく。
「………ぁあああっ」
口吻をほどいた佐知子が、互いの唾に濡れ光る唇から、震える声を洩らした。
「ああっ、くる、スゴイのが、くるっ、アアアッ」
せくり上がる波涛の大きさに、怯えながら。
しかし、燃え盛る肉体は、トドメを求めて、最後の狂奔を開始する。
淫蕩な臀ののたくりが、より直線的な動きへと変わって。達也の腰へドスドスと重たく打ちつけられる。
「ん…あああ、くるっ、きちゃう、んひいっ」
「佐知子さん、イキそう? イっちゃう?」
こちらも息を弾ませ、快楽に耐える表情を見せながら、達也が訊いて。
佐知子の動きに合わせて、ズン、ズンと腰を突き上げた。
「んあっ、アッアッ、達也くん、私、アアアッ」
「一緒にイこう。僕と一緒に」
「あっ、イっちゃ、イク、ああ、イクッ」
一緒に、という達也の言葉の意味するところ、その行動の結果を顧ることなど、無論、佐知子には出来るはずもなく。
身体の中で、達也の巨大な肉体が、さらに膨れ上がるのを感じても、
「アアアッ、スゴッ、や、ヒイッ」 ただ、驚倒して、悲鳴をふり絞って。
「……おおおっ」
咆哮した達也が、最後の一撃を叩きつけた瞬間に、快楽を破裂させた。
「アアッ、イッ…く……アアアアアアアーーーーーッ」 断末魔の絶叫が病室に響く。
凄まじい絶頂へと佐知子を追いやって、達也も引鉄をひいた。
佐知子を最奥まで貫いた肉根が脈動して、怒涛の勢いで若い牡精を噴出する。
「ヒッ、ヒアアアーーーッ」
熱い波に子宮を叩かれる衝撃が、佐知子を、さらなる高みへと飛ばす。
達也の爆発は何度も連続して、膨大な量の熱精で、佐知子の腔内を満たしていく。
「ヒッ、あっ、熱、あついっ」
灼けるように熱い奔流が噴きかけられるたびに、佐知子はビクリビクリと総身をわななかせて。
しかし、その表情には、膣内での射精を許してしまった悔恨や恐怖は、少しも浮かんでいなかった。
ギュッと達也の首にしがみついて、両腿で達也の腰をはさみこんで。
うっとりと眼を閉じて。愛しい男の生命の迸りで満たされる至福を噛みしめていた。
ようやく、達也の長い遂情が終わった時、
「……あぁ……イ…ク……」
かすかに囁いた佐知子の腰がブルリと震えて。
そして、佐知子は、至福のうちに悶絶した。
-15-
週二回の塾通いの日には、裕樹の帰宅は母よりも遅くなる。
母は夕食の支度をすませて裕樹を待っている、それがいつものパターンだったが。
この日は違っていた。
「ただいま」 裕樹の挨拶に応えはなく、いつものような出迎えもなかった。
母の通勤用の靴は玄関にあるし、家の中には灯りもあったが。
「……ママ?」 少し声を大きくして呼んでみた。やはり返事はない。
多少の訝しさを感じながら、リヴィングに入った。
灯りの点いた室内にも、母の姿はない。
キッチンは暗く、食事の用意もなかった。
「……?」
ますます、おかしいなと首をひねりながらも、取り合えず着替えようと、
廊下に出て、階段をのぼりかけて。
ふと、奥の母の部屋のほうに目を向ける。
……一応、確認しておくか、と。
そちらへ足を向けた裕樹は、そこに、同じように母の寝室を訪ねた夜のことを重ねて、ちょっと胸を騒がせたり。
実は、帰宅前から“今夜あたり”と期するものがあった。
だから余計に、母の姿が見当たらないことが、気にかかるのかもしれない。
閉ざされたドアの向こう、母の部屋の中はシンと静かで、ひとの気配を感じとることは出来なかった。
「ママ? いないの?」 ノックのあとに、呼びかけた。
少しだけ、間があって。ドアの向こう、かすかに、ひとが動く気配。
なんだ、いるじゃないか……と軽く安堵した裕樹の前で、ドアが開いた。
「……ママ?」
しかし、現れた母のようすを見て、裕樹はちょっと慌てることになった。
「……おかえりなさい」
ユラリという感じで部屋の入り口に立った佐知子は、寝ていたのか、
声も表情もボンヤリとして。髪も少し乱れていた。
「どうしたの? 具合悪いの?」
「……ちょっと。疲れて……横になってたの」
佐知子は出勤時の服装のままだった。ブラウスにもスカートにも皺がよって。
唯一、ストッキングは脱いで、白い脚をさらしていたが。
几帳面な母が、着替えもせずに横になるほど体調が悪いのか、と裕樹は不安になった。
「ママ…」
「大丈夫よ、そんなに心配しなくていいから」 安心させるように、佐知子は笑ってみせる。
「本当に……少し疲れが出ただけだから」
「う、うん……」
確かに、言葉をかわすうちに、佐知子の口調も表情も、だいぶしっかりしてきたし。
病気というわけではなさそうだと、裕樹はひとまず納得した。
「……それで、晩ごはんの準備が」
「いいよ。なにか取るから。ママは休んでいて」
「そうしてくれる? ごめんね」
すまなそうに言う佐知子には、やはり深い疲弊が滲んで。
しかし、その気だるい表情や、どこかしどけない佇まいには、やけに凄艶なものがあって。淫らな翳り、とでもいうべき色が刷かれていたのだが。
(……なんだか、今日のママは、感じが違うな)
裕樹の幼い感性には、その程度の認識しか出来なかった。
それも、体調の悪さのせいだと簡単に納得してしまうのだった。
「気にしないで。ゆっくり休んでよ」
それでも、そんな労わりを口にしながら、つと手を伸ばして。
そっと母の腕に触れたのは、元気づけようとする思いのほかに、いつもと違う母の雰囲気に引きこまれるものがあったのかもしれない。
「……ありがとう……ごめんね、裕樹」
「そんなこと……」
眼を伏せた母の謝罪の言葉に、奇妙なほど深い感情がをこもっているように感じられて、裕樹は面くらった。
やっぱり、疲れてるんだな。早く休ませてあげよう、と。
そう思ったとき、ふっと鼻に感じた。
「……ママ、汗かいてる?」
「えっ!?」
裕樹とすれば、それほどの陽気でもないのに汗を匂わせた佐知子に、それも体調のせいかと案じてのことだった。
まあ、母子ならではの遠慮のなさでもあって、軽い気持ちで訊いたのだが。
佐知子はハッと身を引いて、
「に、匂う?」 狼狽して訊き返して、しきりに身体を気にするようすを見せる。
「え、いや、そんなでもないけど…」
過剰な反応に当惑しながら、やはり不躾だったかと反省する裕樹。
ママも女なんだから、気にするか、と。
「お風呂、わかそうか?」 お詫びのつもりでもないが、そう申し出た。
汗を流してサッパリして、ゆっくり休めばいいじゃない、と。
「……え…ええ……」 なぜか佐知子は、迷うようすを見せた。
俯いて、しばし考えこむ。
「……やっぱり……今日はやめておくわ……」 静かに、そう言った。
「……今夜は……このまま、眠るわ……」
囁くような声は、当然自分への返答だろうと思ったから、裕樹は、
「そう? そうだね、体調が悪いなら…」
別に無理じいすることでもないと、アッサリ引き下がった。
佐知子の浮かべた薄い微笑も、自分に向けられたものだと思った。
その目が、どこか遠くを見ていたことには気づかなかった。
そっと愛おしむように、お腹のあたりにあてられた手にも、特に注意を引かれなかった。
「じゃ、ゆっくり休んでね」
最後に、そう念押しして。無言でうなずきをかえした母の部屋から離れる。
……まあ、ぐっすり眠れば、大丈夫かな、と。
疲れが出ただけだという母の言葉を信じて、安心しようとする。
それでも、階段を上りかけて、もう一度、母の部屋のほうを見やった。
「明日は……元気な姿を見せてくれるよね。ママ」 そう呼びかけた。
視線のさき、佐知子の寝室のドアは閉ざされている。
その部屋の中。ひとりで。
愛しい母が、なにを思って、どんな夢を見て、この夜を過ごすのか。
いまの裕樹には、知りようもなく、想像しようとも思わない。
裕樹が階上に去り、あとには静かな家内の景色。

エホン、と咳払いひとつ。
「ええ、本日、また越野に来てもらったのは、他でもない」
芝居がかった物々しさで、高本が言う。
「こないだ、相談にのってもらった、オレのダチの件で、新たな進展があったんだな」
「うん……」 人のいい裕樹は、高本の態度に引きこまれて、真剣な表情でうなずく。
「それでまた、越野にも聞いてもらってだ、意見を聞かせてもらいたい、と」
「うん」 場所もメンツも、先日と同じ。放課後、繁華街のバーガー・ショップ。
裕樹の向かいには、高本と市村が並んで座っている。
「……いや、ぶっちゃけ、驚きよ、これが」 急に高本は地にもどって呆れたように言った。
「ど、どうしたの?」 思わず、裕樹は、軽く身を乗り出してしまう。
いまだ、このふたりに付き合うことに、積極的な気持ちにはなれないながらも今日こうしてついて来てしまったのは、その件、高本の友人の恋のゆくえが気にかかったからである。
「堕ちちゃったよ」
「え?」
「だから、その子持ちの年増女。とうとう、口説きおとしちまったんだと」
「ええっ!?」
確かに、裕樹は驚かされた。まったく予想外だった。
「ほ、本当にっ?」
「ああ。マジらしい。そんな、すぐに割れるようなホラふくやつでもないからな」
グイとコーラを呷って、ガリガリと氷を噛み砕いた高本は、
“ま、チョイと聞いてくれよ”といった感じで、
「そいつもさ、やっぱオトナのいい女、オトしたのが自慢らしくてさ、コマかく教えてくれるんだけども。そこまでのなりゆきってやつをさ」
滔々と、まくしたてた。
「さんざんコナかけたあとに、正面突破で、好きだってブチかましてさ。女のほうは、年のことやら持ち出して、返事を渋ったらしいけども。それでも、強硬にイエスかノーかと迫ったら、結局うなずいて。夕陽の中で、誓いのキッスですと。ったく、聞いてらんねーよなあ?」
大袈裟に嘆息してみせる。
「……………」 裕樹は、ショックをあらたにして、口を噤んだ。
息苦しいような心地……もっと言えば、不快な気分になっている。
その高本の友人の想いを応援したい、と、以前に裕樹は言ったが。
しかし、現実に、その恋が報われるとは、少しも考えていなかった。
“応援したいが、無理だろう”というのは表層的な感情で。
“無理に違いないから、応援してやれる”が本音であったとまで、冷静に自己の心理を顧みることは出来なかったが。
「なあ、どう思うよ? いや、ダチの想いが叶ったんだから、オレも喜んでやるべきなんだろうけど。どうも、こう、おさまりが悪いんだよなあ」
「う、うん…」
「だって、中学生だぜ? それが…」
「……まあ、中学生っていっても」 今日はじめて、市村が口をはさむ。
「見た目は、そうは見えないからな。大人っぽいヤツだから」
「や、そうだけどさあ」 と、やはり中学生には見えない二人は言い合う。
「それに美形だし。もともと、女にはモテるやつじゃん」
「って、市やん、それはミもフタもなくない?」
「そんなもんだろ、女なんて。年くってようが、母親だろうが」
そう言って。市村は、高本以上に納得いかない顔で見ている裕樹に、言葉同様に冷淡な眼を合わせた。
「そのママさんもさ、最初に会ったときから、美形だってことは意識したろうし」
「なによ? いい年こいた女が、中学生にひとめ惚れしたってか?」
「かもよ。とにかく、ハナから憎からず思ってたんじゃないか。そんな相手に、熱烈にモーションかけられりゃあ、ノボせもするだろ。いい年こいた女でもさ」
わずかに皮肉な口調で。事実を読み上げるように語る市村。
裕樹は、知らず、その顔を睨みつけるようにしていた。
聞けば聞くほどに、高本の友人なる人物への反感が募っていく。
どうも、話が違っている気がするのは、その友人が、件の年上女性に向ける気持ちがあまり真摯なものではないように感じられることだった。
それを是認するような市村の言いようも、当然、気にいらない。
「そんで、フラっと、よろめいたって? どーかと思うなあ、それ」
だから、市村に食い下がる高本を、応援するような気持ちになっていた。
「だって、市やんさあ、いま母親っていったけど。ガキはどうするわけ?女のガキの気持ち、っつーかさあ」
果たして、一番自分が言いたいことを代弁されて、大きく肯いた裕樹だったが。
「そのガキ中三だろ?自分の母親が自分と同い年のガキとくっついたなんて知ったら…」
「えっ!?」 いかにも憤懣やるかたないといった調子で続けた高本の言葉に、驚愕する。
「うん?」
「…………」 ふたりが、同時に、大声を上げた裕樹へと視線を向ける。
それぞれの仮面を被って。しかし、その眼には、同じものを湛えて。
「なに? 越野」
「その、その女のひとの子供って……僕らと、同い年なの?」
「そうよ。あれ、言ってなかったっけか?」
「聞いてないよ。だって、そのひと、三十歳くらいだって」
「ハァ? んなわけねえや。中三のガキがいるのによ」
「だって、この前は…」
「んなこと、言った? 市やん」
思い出す…フリで。市村は、予め用意の釈明を口にする。
「…ああ“三十は越えてる”って言ったんじゃないか。正確な年はわからんから、とりあえず」
「なるほど。それを越野は、三十くらいだと思いこんじゃった、と」
高本は、納得顔でうなずいて。
「さすがに、三十ってことはないわ。やっぱ、オレらの母親くらいの年代」
「そ、そうだったんだ…」
「そう聞いたら、余計に信じらんないだろ? 自分のガキと同い年の男とさあ」
「う、うん」
その通りだった。本当に、信じられない。そして、いっそう、いやな気持ちになった。
しかし、裕樹は、
「……あ、あのさ」 おずおずと、訊かずにはいられなかったのだった。
「本当に…信じられないけど……その女のひとも、好きになっちゃったんだよね?その、高本くんの友達のことが…」
「そうらしいな」
「でも、さ。それで、どうする気なんだろ?」
「はぁ?」
「これから。中学生と、つきあうってこと?」
神妙な顔で、裕樹は問い質したのだが。
高本は、プッと吹き出した。
「な、なに?」
「……や、悪い。スマン」 高本は、なおも、ウププと笑いを堪えながら、
「だってさ、おかしくない?中学生の男と、母親くらいの年の女が、“つきあう”ってさあ」
「それは…そうかも知れないけど…」 憮然とする裕樹。
妙にツボに入ってしまったらしい高本の、言わんとすることもわからないではなかったが。
でも、他にどんな言いようがあるのか、と。
「……まあ、当人たちは、そのつもりみたいよ」 とりなすように、市村が言った。
「“つきあう”つもりらしい。当然、まわりには内緒でだけど」
「……そうなんだ」
「…って、いうかよ」 笑いの発作をしずめて、高本が、
「もう、オトナの“つきあい”は始めちゃってるんだもの」
「えっ?」 また驚愕する裕樹を、ニヤニヤと、やたら愉しそうに眺めて、
「そりゃあ、たかがチューくらいで“堕とした”なんて、えらそうに言わないって、そいつも」
「それ、って…」
「もう、ヤっちゃったってこと」
「………………」
「なあ?チョイと、問いつめたい気分には、なるよなあ?息子と同じ年の中学生に股ぁ開くママンの気持ちってヤツをさあ。どうよ、市やん?」
ショックに固まる裕樹を横目にみながら、相方にふった。
「んなこたあ、知らんけど。でも、ヤっちまったあとのことは、想像がつくよな」
「ああ…ねえ? あんなデカマラ、ブチこまれちまったらねえ…」
「………え?」
「いや、スゲエのよ、そいつのが。まさに馬並みってやつ」
「女の扱いにも、慣れてるしな」
「え、え? だって、僕らと同い年、なんでしょ?」
「まあ、いろんな意味で、ケタが外れてる男なのだよ」
「そ、そうなの…」
「だから、一発ヤられた時点で、もうダメだね、そのママさんも。中学生のデカチ○ポとテクでメロメロにされてるね。もう離れられないってなもんだね」
「そんな……大人の女のひとが…」
「大人の女だから、余計に効くんじゃん。デカマラの威力がさ」
「しかも、ダンナと別れてから、だいぶ経つらしいからな」
“別れて”と、市村は言う。“死に別れて”とは言わずに。微妙に逸らす。
「そりゃあ、もうひとたまりもないってなもんだな」
「………………」
「なあ、どうよ、越野? 想像してみろよ」
「……え?」
「もし、自分が、その女のガキだったらってさ」
「なっ…」
「越野の母ちゃんがさ、中学生に惚れちゃって。デカくてイキのいいチ○ポで、ズブズブハメまくられてさあ。すっかり骨ヌキにされちゃったら。どうするよ?」
「そんなこと、あるわけないだろっ!」
「いや、だから、たとえばの話よ。あくまでも」
「そんなのっ」
また激昂した声を上げかけて。他の客の注視を感じて、裕樹は懸命に気をしずめて、
「……ありえないことは、想像できないよ」 吐き捨てるように、そう言った。
不愉快だった。
引き合いに出されただけでも、母を穢されたような気がする。
また、問題の母子が、年代や家庭環境など、妙に自分たち母子に符合するものだから、余計に、いやな気分になるのだった。
裕樹は、その“見知らぬ”ふしだらな母親に、深い蔑み、憎悪に近い感情さえ抱いて、
「普通、ありえないだろ、そんなの。そのひとが、どうかしてるんだよ」
その悪感情を隠そうともせずに、言い足した。
「おお、なんか、越野、怖えよ。怒った?」
「いまのは、高本が悪い」
「いや、スマンかった。このとおり」 市村にも言われて、頭を下げる高本。
「オレは、ただ、その女の息子の立場だったら、タマらんよなあって。それを言いたかっただけなのよ」
「……うん。そうだよね」
それには、裕樹も深く同感する。“見知らぬ”同年齢の少年への同情と哀憫が胸をしめつけて。それがいっそう、その母親への怒りを強めた。
「……どんなもんかな?」 ふと、市村が口を開いた。
「いまのところは、そいつも、母親の行状は知らないんだけど。やっぱり、このまま知らずにいたほうが、そいつにとって幸福なのかね?」
「そら、そうだろ?知りたくねえよ、自分の母ちゃんが中学生のオンナにされてるなんてさあ」
「でも、知ろうが知るまいが、事実は変わらないんだぜ?母親が、中学生と深みに嵌ってくのに、息子は気づかずにいるってのも、哀れじゃないか」
「いや、でもさあ…」
「越野は、どう思う?」
「……う…ん…」 裕樹は、深刻な表情で考えこむ。
「……むずかしい、ね…」 容易には結論を出せなかった。
「だよな?ホント“知るも地獄知らぬも地獄”ってことだと思うぜ。そいつからしたらさ」
まったく、その通りだと思った。裕樹は深く首肯して。
「……でも。ずっと知らずには、いられないんじゃないかな…?」 辛そうに、言った。
「母子ふたりの暮らしなんでしょ? その子も、いずれ気づくんじゃないかな」
「そうだろか?」
「母親が、隠す気になったら、わかんねえんじゃん?」
「うん…でも…」
実際のところは、わからない。その子は母の異変に気づくかも知れないし、いつまでも気づかないかも知れない。
「……一番いいのは、その子が気づかないうちにお母さんが目を覚ましてくれることかな」
「いや、だから、それはムリだって。もう一発キメられたあとだから。少なくとも、女のほうからは、絶対別れようなんてしないってば」
高本が力説しても、裕樹は、その点はまったく信じる気になれなかった。
そんな理由で、離れられなくなることなど、ありえないと思っている。
その母親の放埓さは許せないが、それでも、一時の気の迷いであってくれれば、と。
見ず知らずの少年のために、裕樹は願った。
その同情は、似たような境遇にあっても、自分には揺るぎない母との絆があるという優越感から来るものだったが。裕樹はそこまでは自覚せずに。
「…やっぱり…その子、可哀想だよね…」 沈痛に、そう言った。
「まあなあ」
「そうだな」
同意する高本と市村の態度は、裕樹に比べて軽いものだったが。
確かに、その眼には憐れみの色も、浮かんではいたのだった。
-16-
特別病室の空気は、また変化した。
もともと、滞在する患者の種類によって、大きく趣きを違える部屋である。
真に癒しを求める者が在る時には、そこはあくまでも静謐な、落ち着いた空間となる。
治療が口実でしかない類の患者が逗留すれば、病室とは思えぬような放埓で不謹慎な場所になりもする。
いずれの場合にも、それを可能とするのは、この高価な部屋の最大の売りである隔離性と密室性であった。
で、いまは宇崎達也という年若いVIPを収容する、その部屋の雰囲気が、最近、また変化したという話である。
また、というのは、ここまで刻々と変容していたからだ。
達也の入院当初の、静かで穏やかな雰囲気。
しかし、達也専任となって終日を共に過ごすようになった越野佐知子との間に奇妙な緊迫した空気が流れるようになって。
やがて、ふたりの関係の変化に伴って、そこには淫らな熱気が加わって。
日ごとに、淫猥な熱と緊張は高まっていって。
ついにピークに到達した……のは、つい二日前のこと。
狂熱のうちに、とうとう肉体を繋げあったふたり。
であれば、その後に共に過ごす部屋の空気が、また変容するのは当然のこととも思えるが。
「……でも、みんな驚くだろうね」 達也の、愉しげな声が響く。
室内は静かだ。しかし、数日前までの息づまるような緊迫のムードは、どこにも残っていなかった。変化とは、そのことである。
「佐知子さんが、病室で、こんなことをしてるって知ったら」
嬲るような言葉だが、口調は軽く、ユルい。
タルんだ空気に同調した……というのは、逆だ。
そこにいる者たちの有様が変わったから、場の雰囲気が変化しているわけだ。
達也は、佐知子の篭絡というゲームを終了して、あとは気ままに楽しむだけ、というつもりになっているから、あれこれ策謀していた時の熱と真剣さはない。
そして、佐知子はと、言えば。
「佐知子さんって、主任なんだよね? 偉いんでしょ?」
皮肉な達也の問いかけにも、また答えは返ってこない。
ただ、荒い鼻息と、隠微な水音だけが聞こえてくる。
ヤレヤレ、といった表情で、達也は見下ろした。
張りつめるものを失くした病室内には、ただ淫猥な熱だけが残り、淀んでいる。
そうなった最大の理由は……言うまでもなく、佐知子だ。佐知子の変貌だ。
ふたりの関係が、ついに一線を越えたあとに。
達也は気をゆるめたが。佐知子は頭がユルんでしまったようだ。
放恣なムードを作り出しているのは、それまでの懊悩や迷いをキレイさっぱり忘れ去ってひたすら淫情に耽溺しようとする、佐知子のタガの外れっぷりだった。
「ねえ? 佐知子さんってば」
また達也が呼んでも、応えはない。ただ、フンフンと、ピチャピチャと。
ベッドの端に腰掛けた達也の両脚の間に跪いて、股間へと顔を埋めて。
うっとりと瞼を閉じた佐知子の口と舌は達也の男根を舐めしゃぶることに忙しかったので。
一心不乱といったていで、佐知子は、覚えたての淫戯に没入している。
剛茎の根元に細い指を絡めて。すでに血を漲らせた巨大な肉冠に、ペロペロと桃色の舌先を這わせている。
舌の動きは拙く、技巧と呼べるものはなにもなかったが。
せわしなくペロペロと舐めずる舌の運びや、鼻から洩れる甘ったるい息、上気した頬や眼元の色づきには、強い昂ぶりが滲み出ていた。
この逞しい牡肉が愛しくてたまらない、という情感が。
(……やっぱ、イチコロだったな)
達也は冷笑とともに、佐知子のノメりこみようを見下ろす。
はるか年上の女がさらす屈服ぶりも、予定調和でしかない。肉の争闘において、達也の並外れた力に敵しえた女など、過去にひとりもいなかったから。
それでも、特に思い入れた豊艶な年増美女が見せる無残な敗北の姿は、愉しい眺めには違いなかったが。あえて、達也は水をさす。
片手に剛直を掴んで、筒先をもたげて、佐知子の熱心な舌先から離した。
「アッ、あぁん…」
途端に佐知子はムズがる声を上げて、首を伸ばして、逃げる肉根を追いかけながら、上目づかいに達也を見上げた。
「……すっごく、いやらしい顔になってるよ、佐知子さん」
「……いや」
達也の指摘に、にわかに羞恥を蘇らせて、はしたなくそよいでいた舌を引っこめて、気弱く眼を伏せた。
すると達也は矛先を戻して。先端を佐知子の鼻頭に押しつける。
ヒッ、と喉を鳴らして、反射的に退ろうとする佐知子の後頭部を押さえこんで。
硬い肉で、かたちの良い鼻梁をグリグリとこねまわし、鼻面を押し上げた。
「い、いやぁっ」 典雅な美貌を無惨に破壊されて、熟れたメス豚がブタ面で啼く。
達也は、実に愉しげに、それを見下ろす。
もはや完全に佐知子をモノにしたという自信から、少しづつ、その本性をあらわしていく。
「ねえ、どうする?こんな場面を、もし誰かに見られたら。佐知子さんの部下の若い看護婦とかが、これを見たら、なんて言うだろうね?」
「……アァ…」 達也の残酷な言葉に胸を刺されて、泣くような声を洩らしても。
佐知子には、我が身のあさましさを嘆き、発覚の恐怖に震える余裕すらない。
ピタリと鼻面に押しつけられた達也の肉体から、ダイレクトに嗅がされる強い臭気に酔わされて、それどころではなくなってしまっていた。
自分がまぶした唾の匂い。その下から、達也の、若い牡の旺盛な精臭。
「……あぁ…」
思わず、佐知子は、ブタのように上向かされた鼻孔を拡げて、その香を深く吸いこんでいた。酩酊が強まり、カッと血が燃え上がる。
臭気の濃さは、若く逞しい牡獣の膨大なエネルギーのあらわれだが。
いまはことさらに淫猥な生臭さが際立っているのは、それが情事のあとのペニスだからだ。
今日すでに一度、達也の男性は欲望を吐き出していた。無論、佐知子の子宮へと。
これまた無論のこととして、さんざん佐知子をヨガリ狂わせたはてに気の遠のくほどの絶頂を味あわせて。
だから、いま達也の巨大な肉根にまとわりついているのは、爛れたセックスそのものの臭いだった。大量に吐き出された男精と、やはり多量に噴きかけられた女蜜の残滓が饐えた臭気を作り出しているのだ。
その穢れた肉塊を、佐知子は夢中で舐めしゃぶり、いまはブタ型にされた鼻の穴をフンフンと鳴らして、嗅いでいるのだ。
汚いとは思わず、くさいとも感じなかった。
すべて、自分と達也の交歓の痕跡だと思えば、切なく甘やかな感情だけがわいてくる。
あの、この世ならぬ快楽の名残だと思えば、肉が慄えた。
欲望の泥濘に頭まで浸かりこんでしまえば、身もがきも心の揺れも、なにもかもがさらなる悦楽を求めることへと収束していく。
だから。
佐知子の美貌を歪める遊びを堪能した達也が、やっと剛直を鼻から離したときに、
「……ひどいわ、達也くん」 佐知子が洩らした恨みの言葉は、言いわけでしかなかった。
「ごめん。佐知子さん、可愛いから。時々、無性にイジめたくなっちゃう」
苦笑して見せて。声は甘くしても、達也の弁解は、どこかぞんざいだ。
いまの佐知子には、これで充分だと見切っている。
「……もう…」
はたして佐知子は、軽い嘆息ひとつで、かたちばかりの非難の色さえ消してしまった。
恋に盲いた女の愚かしさで、達也の悪趣味な戯れも熱情からと都合よく解釈して。
それを受け容れることで馴れ合いを深めたつもりで。眼にはジットリと媚びをたたえて。
そして、勝手に高めた情感に衝き動かされて眼前に聳え立つ肉の屹立へと唇を寄せていく。
赤黒い亀頭に、チュッと口づければ、その熱と肉感がジンと唇を痺れさせて。
たまらずに、巨大な肉傘のあちこちに、チュッチュとキスの雨を降らせる。
そうしながら、ますます淫情に蕩けていく佐知子のノボセ顔を見下ろして、
「すっかり、おしゃぶりが好きになっちゃったんだね?」 達也は訊いた。
達也の鈴口に吸いついたまま、佐知子は小さく首を横にふって。
しかし、その後に、かすかに肯いてみせた。

Last Update : 2008年12月04日 (木) 7:44