堕とされた母 ⑩

「……他のナースたちに…みんなに知られてしまって……私、どうしたらいいの…?」
甘く恨む眼を達也に向けて、口から吐いた嘆きの言葉は、現実の状況に比べればあまりにも危機感が薄かった。とうとう、部下から面と向かって問いつめられたという窮状を達也に知らせたのも、“だから、人目につくことは、謹んでくれ”などというつもりではなくて。
“これほどに、自分は貴方に尽くしているのだ”と、己の忠誠ぶりをアピールする気持ちからだった。
粘っこい眼の色で。自ら白衣の裾を捲くって、尻を剥き出した従順な姿勢で。
淫らな装いに彩られた裸の臀で。
“だから、捨てないでくれ”と、佐知子は媚びている。
「別に、いいじゃない」
軽く、達也は言った。はるか年上の女が見せる従属のようすに満足しながら。
「やましいことなんか、ないんだからさ。僕ら、愛しあってるんだから」
「……………」
以前なら、こんな直截な言葉には、決まって、母子ほども離れた互いの年齢のことを持ち出して、達也の(そして、自分の)熱に水を差そうとした佐知子だったが。
いまは、それを言おうとはしない。年の差に触れることを、忌避していた。
「ま、勤務中にってことだけ、まずいかもしれないけど」
滑らかな臀肌の手触りを愉しみながら、笑い含みに達也は続けた。
「それだって、実際に現場を見られるってことは、ありえないんだからさ。トボけておけば、いいんだよ。今朝みたいにね」
「………あぁ…」
気楽に請け負う達也の科白に、佐知子はつい先刻の窮地を思い出して辛そうに眉を寄せた。
「あとは。もう少し、声を抑えられれば、いいんだろうけどね。佐知子さん、けっこう声が大きくなるからなあ」
「いや、言わないで」 羞恥に染まった頬を、泣くように歪めて、佐知子が訴えた。
乱れの中にあるときの激しさは、自覚している。恥ずかしいし、危険だとも思うのだが。
達也に愛されて、至極の快楽にのたうっている最中には、なにも考えられなくなって、堪えきれぬ快楽を、高い叫びや、あられもない痴語にして吐き散らしてしまうのだった。
「達也くんが……達也くんのせいよ」
「そうなの?」
すっとぼけて。達也は、撫でまわしていた佐知子の臀肉を、グッと掴みしめた。
「アッ、そ、そうよ」
ビクリと過敏な反応を示して。条件反射的に、ムチッと張りつめた巨臀を後ろへと突き出しながら、佐知子が上擦った声で言った。
「た、達也くんが、スゴすぎるから、だから、どうしても、声が」
「ああ、そういうことね」
しれっと言い捨てて。達也は、佐知子の臀丘を掴んでいた手を、今度は深い切れ間に挿し入れ、食いこんだ細い布地の上から、アナル周辺を擦りたてた。
「ヒッ、アァッ」
「でも、僕だけかなあ?佐知子さんの、感じやすい、いやらしい体のせいでもあるんじゃないかな」
「アッ、そ、それも、達也くんが、あっ、イッ」
「それも、僕のせい? 納得いかないなあ」 わざとらしく、苦笑して、
「じゃあ、やめようか?」
「イヤッ」 佐知子の返答は、迅速だった。
「やめないで、続けてっ」
腰の両横で白衣の裾を掴んだ手をグッと握りしめて、プリッと突き出したデカ尻を淫猥にふりたくり、すでに熱と蜜を孕んだ秘裂を、達也の手になすりつけるようにして、求めた。
達也の指が、黒いTバックに沿って、下へと滑った。プックラと盛り上がった女陰を薄布ごしに、スッと刷くように擦る。
「ふ、あっ、イイッ、いいのっ」
途端に鼻から抜ける声が洩れて、白い臀肉がブルブルとわななく。
たった、これだけの愛撫に、ビリビリと快美が突き抜けて。
快楽に免疫のなかった佐知子の爛熟の肉体は、達也が教えこんだ未知の愉悦に完全な中毒状態に陥っている。しかも、この世ならぬ悦楽は、味わうほどに深く強くなるのだった。
これさえあれば、他にはなにもいらない、と。そう思ってしまう。
「本当に、淫乱だなあ、佐知子さんは」
そんな、色ボケした佐知子の状態を、達也は遠慮のない言葉で言い表した。
「あぁん、あなたが、達也くんが、私をこんなにしたのよ」
お決まりになった恨み言を吐いて。達也を見返った佐知子の双眸はドロリと蕩けている。
自分の肉体をこんなふうに変えてしまった若い情人の眼に、はしたなく淫らなさまを晒すことに、こよない愉悦を感じているようだった。
「フフ、可愛いこと、言ってくれるよね」
母親ほどの年の女を思うがままに操る、悪辣な中学生は、平然と笑って。
「でも、今日は、ちょっとマズいんだな」
惜しげもなく、佐知子の秘肉から、手を離してしまった。
「あん、いやぁ、また…」
すでに、達也の嬲り方に馴染まされている佐知子は、“また、焦らすのか”と。
「いやよ、達也くん、意地悪しないで」
甘ったるく鼻を鳴らして、プリプリと剥き身の白い臀をふって。
恥もなければ年甲斐もない媚態で、達也を誘ったが。
「いや、今日はさ…」
発情した熟れメスの醜態を嘲る眼で眺めながら達也はいつもの嬲りではないことを告げる。
「午後から、浩次と高本が来るんだよね」
「……え?」
と、聞き返した佐知子の表情が、硬くなって。淫猥で滑稽な尻踊りも止まった。
「“あれ”以来、ずっと来てなかったでしょ? 久しぶりに見舞いに来たいっていうから」
「そ、そうなの…」
「高本も充分反省したみたいだからさ。今日はキチンと佐知子さんに詫び入れさせるから」
「それは…」
佐知子は捲くっていた白衣の裾を戻して、豊臀を隠しながら、言った。
急に真面目な会話に引き戻されれば、淫らな戯れの中で晒していた破廉恥な姿ではいられない。
いまさらな羞恥に赤面しながら、皺になったスカートを引き伸ばして、達也へと向き直る。
「そのことは…もういいのよ」
「いや、ケジメはつけさせないとね。高本も、ちゃんと謝りたいって言ってるし」
「そう…」 そうまで言われれば、高本の謝罪も受けざるをえないが。
「…ねえ、達也くん?」 俄かに不安にかられたようすで、佐知子は訊いた。
「私たちのこと、彼らには…?」
「ああ。勿論、なにも言ってないし。これからも教える気はないよ」
キッパリと、達也は言い切った。
「いくら、親友でも。これだけはね?」
佐知子は、安堵の色をあらわにして、深くうなずいた。
達也の友人たちには、決して知られたくなかった。
それは、達也と同年齢である少年たちへの恥の感情もあるが。
なによりも、彼らも、裕樹の同級生であるということが問題だった。
部下のナースたちに対しては、もはや開き直ったようなところもある佐知子だが。
息子の裕樹にだけは達也とのことを隠し通さねばならないという意識を、まだ残している。
「だからね。今日は控えといたほうが、いいと思うんだ。こういうことには鼻がきく連中だから。どんな痕跡を見つけないとも限らないから」
「そう……そうね」
自分も高本らと面会しなければならないということが、佐知子を深く首肯させる。
もし……この数日と同様に、彼らが来るまでの時間を過ごしてしまったら……。
髪も服も乱れて。汗と淫蜜の匂いを染み付かせて。
必ず、少年たちに異変を気取られてしまうだろう。
たとえ、それがなくても、達也との淫楽に耽った直後に、平静を取り繕う自信など佐知子にはなかった。
だから、佐知子は(多少の寂しさを感じながら)、この午前を静かに過ごそうという達也の提案を承諾する気になったのだが。
「……でも」 と、そのすぐ後に、達也は言い足したのである。
「なんにもなしってのも、ヒマだし退屈だよねえ?」 思わせぶりに。
つまりは、佐知子に配慮したかのようで、その実まったく無意味な提言など
(実際には、高本らは、佐知子と達也の関係の逐一を知っているわけだから)
達也の、ただの気まぐれにすぎないということだったが。
「軽く、戯れるくらいなら、いいかな」
しかし、裏の事情を知らずとも、辻褄の合わないように聞こえる、その言葉を。
佐知子は反論もせず、無言で聞いて。ジッと、意を探るように達也を見た。
「たとえば……」 達也が、ベッドの上に投げ出していた両脚を、大きく広げた。
「おしゃぶりしてもらうくらいなら、バレないよね」
「………………」 佐知子は無言のまま。
しかし、達也に合わせた眼には、また好色な輝きを浮かべて。
もたげた膝をベッドに乗せると。ゆっくりと、のたくるような動きで。
達也の両脚の間に、身体を伏せていった……。

「スマンかった、です。この通り」
そう言って、高本は、その巨躯を折りたたむようにして、深々と頭を下げた。
病室に来訪するなりの行動である。
緊張して待っていた佐知子が拍子ぬけを感じるほどの、素早さと潔さだった。
「あれから、ずっと謝りたいと思ってたんだけど…」
バツが悪そうに。いかつい顔に神妙な表情。
達也に命じられて渋々、といった気配は微塵もなく。心底、反省しているふうで。
「いいのよ。あの時は、私もきつく言いすぎたし」
そう答える佐知子も、自然に表情が柔らかくなっていた。
「じゃあ、ゆるしてもらえます?」
「ええ、勿論…」
「よかったあ。越野のママさん、優しい」
嬉しそうに笑うと、ゴツイ顔に愛嬌が滲む。少なくとも、達也よりは、よほど年相応な子供らしさを、佐知子の眼に見せるのだが。
しかし、丸めていた背を伸ばして晴々と胸をはると、達也以上に大柄でガッシリとした高本の肉体は、圧し掛かるような威圧感を示して。
気おされた佐知子は、つい横目に達也を見やった。
微笑んで、というよりは、ニヤニヤとふたりの遣り取りを見守っていた達也は、
「仲直りのしるしに、握手してもらえよ、高本」
気楽な調子で、そんなことを言った。
佐知子にすれば、あまり歓迎できない提案だったが。やけに感激した高本が、ゴシゴシと腰元で拭った手を差し出せば、拒むことも出来ない。
おずおずと伸ばした白い繊手が、大きなゴツゴツとした手に握られて。
なにがそんなに嬉しいのか、高本は握った佐知子の手を大きく揺すりながら、ギュッと強い力をこめて。長く、離そうとしなかった。
「オレ、これからは、越野とも仲良くするよ」
熱っぽく、そんなことを約束されても。佐知子には、一概に喜べることでもない。
しつこいほどの握手にも困惑して。
佐知子は、また、頼るような眼を、達也へと向けてしまう。
相変わらず、達也は愉快そうに、佐知子らを眺めている。
その横に立った市村は、静かに観察する眼を、佐知子に注いでいた。
……それでも。
その後、しばし病室にとどまって。
高本や、市村とも、二、三言、会話を交わして。
多少とも打ち解けた雰囲気になったところで、佐知子は病室を後にした。
去りしなに、そっと達也に眼を合わせたのは、“くれぐれも”と秘密の遵守を頼む気持ちであり。達也もまた、目顔で“わかってる”と答えた。
密やかな疎通……と、思っていたのは、出ていった佐知子ひとりで。
気づかぬふりで、無言の会話を、バッチリ視界の隅に捉えていた市村は、佐知子の気配が遠ざかるのを待って、
「……メロメロじゃん。越野ママ」 呆れたように、言った。
「フフン、わかるかね?」
「あんなの、事情知らなくたって気づくと思うぜ。なにかっつーと、達也のほうを縋るように見つめちゃってさ」
無論、越野裕樹の母親が、達也に骨抜きにされていることは、達也当人からの報告で、すでに承知していたのだが。実際に会ってみれば、佐知子の屈従ぶりは予想以上だった。
達也は、得意気に笑って、
「……まだ、それほど調教を進めたわけじゃないけどな。ま、見かけによらず、かなりのスキモノだよ、あの女」
「どうやら、そのようだね」 悪どい笑みを交わしあって。
そこで、達也と市村は、同時に気づいた。もうひとり、いつもは一番うるさいヤツがおとなしいことに。
高本は、佐知子の手を握っていた、自分の手を臭うことに忙しいようすであった。
たかが握手程度で、どれほど佐知子の香が残るというのか。とにかくも、高本はクンクンと鼻を鳴らして、一心不乱に掌の臭いを嗅いでいる。
「……匂い、するか?」
「する」 市村の問いにも、短く、邪魔くさそうに答えて。ひたすら、臭い続ける。
「あ、でも、さっきまで、握らせて咥えさせてたんだけど」
「……グッ・・・」
達也の言葉にはさすがに恍惚としていた顔が引き攣り鼻先にあてていた手を離しかけたが。
しかし高本は、一瞬の逡巡のあと、キッと眦を吊り上げると。
大きく伸ばした舌で、掌をベロリと舐めたのだった。
「うわ……」
「ま、負けた」 引きが入るふたりに、高本は、フンと荒い鼻息をついて、
「いまさらじゃん。いつも、宇崎クンの“おさがり”もらってんだから」
何故か、勝ち誇るように言い放った。
「いや、それは、そうだけどさ」
「なに、高本? 今回は、その“おさがり”が回ってくるのが遅いって、また怒ってんの?」
「うんにゃ。それはいいよ、もう」
「ほ?」
「だってさ、それほど宇崎クンが入れこむってことは、越野ママ、かなり味がいいってことだろ?」
「まあ、な。悪かねえよ」
「それを楽しみに待つ、ってか? 高本にしちゃあ、ずいぶん気が長いっつーか」
「だって。いくらせっついたってオレらの言うことなんか聞いてくれないもの、このヒト」
「いやあ、今回は楽しくてさあ」
「だから、いいんよ、それは。もう、好きなだけ、やっちゃって。……どーせ、たいした違いでもないから。いくら、お気に入りだつっても、飽きる時には、アッサリ飽きちゃうんだから、宇崎クンは」
なるほど、と市村も納得した。高本も、よくわかってる、と。
達也を見れば、高本らしからぬ洞察に、ふーん、と感心しているようす。
その態度を見ても、佐知子の篭絡過程ほどの熱を抱いていないことは、明らかだった。
「ま、とにかく、宇崎クンには、飽きるまでヤッてもらって。で、いよいよ、オレらのとこに回ってきたら……」
ギラッと。狂的な欲望の火が高本の眼に宿って、
「待たされた分も、タップリと思い知らせてやるよ。あのエロい身体、ギッタンギッタンにしちゃる」
舌なめずりするように。そう告げた。
(……まったく、災難だよなあ、越野のママさんも)
市村は、同情した。
つい、この間までは、貞淑な寡婦、良き母親として平穏に暮らしていたのだろうに。
宇崎達也、なんて化け物と出逢ってしまったばっかりに。
いまは、息子と同い年の中学生の肉奴隷として、訓致されつつあり。
やがては、その達也にも捨てられて、やはり息子の同級生である不良に下げ渡される運命なのだ。
(悪魔から野獣へ…か)
しかも、その野獣は、長く待たされたために、やたらと張り切っちゃってるのだ。
宣言通り、越野裕樹の母親は、ギッタンギッタンに嬲られることになるだろう。
そして。その頃には、越野裕樹も、自分の母親が、同級生の肉玩具に成り下がったことを知ることになるだろう。真に同情すべきは、佐知子ではなく、裕樹かもしれない。
いずれにしろ、越野家は、母子ふたりきりの家庭は、崩壊することに確定している。
(ひどい話だよな)
そう内心に呟きながら。市村は、その一部始終を見届けるつもりである。
(愉しいなあ……)
ひどい話だから、愉快で、楽しみでならない。

……自分が辞去した後の病室で。自分の身のふりかたについて、勝手に話を進められたり、憐れまれたりしていることなど、無論、つゆほども知らない佐知子である。
病室を出て、ナース・ルームに戻ることには気が重かったのだが。
丁度、婦長からの呼び出しがかかって、ひとまずは、部下たちの猜疑と不信の眼が待つ部屋へは、戻らずにすんだのだった。……婦長の用件も解りきっていたから、折りよく、とも言えないだろうが。
佐知子は、部下たちに対峙した時とは、また別種の緊張と身構えを持って婦長室を訪ねた。
案の定、婦長は、いつにない険しい表情で、佐知子を招じ入れた。
だが、座らせた佐知子と向かいあっても、婦長は、しばし口を開こうとしなかった。
糾明も叱責もせず、ただ、苦い顔で佐知子を見つめた。
それは、無言のうちに怒りを示そうとするのではなくて、言葉を探しあぐねるといったふうだった。
まず、いまだに信じられない、という思いが根底にあった。
越野主任看護婦は、婦長がもっとも信頼し、現場の統括を一任してきた人材である。
それは、単に経験と有能さだけに対する評価ではなかった。成熟した円満な人格、職務への情熱と、強い責任感といった部分が、上からは信任され、下からは信望を受けて、佐知子を、この病院の看護体制において欠くべからざる存在としていたわけである。
それが……。
婦長は、重い溜息をひとつつくと、やっと言葉を発した。気の乗らない口調で。
「……他のナースたちから、いろいろ、申し立てが来ているのだけれど。最近の、あなたの勤務態度について」
「誤解です」
簡潔に、佐知子は答えた。眼を伏せて、その美しい面には、なんの感情も見せずに。
「私は、現在の務めを果たしているだけです。責められるような行いは、なにも」
やはり感情のこもらぬ声で、台本を読むように。
「………………」 婦長は、また無言で佐知子を見つめた。
最初のうち、ポツポツとナースたちから注進が届きはじめた頃には、婦長も、そう思っていたのだ。佐知子の精勤ぶりが、あらぬ誤解を生んでいるだけのことだと。
しかし、いまとなっては、婦長も認めざるをえない。事実を。
佐知子の異常を伝える多数の証言、裏づけをとるまでもなく。
いま眼の前に座る佐知子の、まるで別人のように変わりはてた雰囲気が雄弁に物語っていた。彼女の内に起こった、好ましからざる変化を。
…・・・視線を佐知子の面から身体へと移す。
相変わらず、キッチリと纏っている……はずの白衣が、どこかしどけなく見えるのは、先入観のゆえだろうか? だが、豊かな胸元に、下着の色が浮き上がっているのは気のせいではない。座っているから、腰元はうかがえないが。
“すべて誤解だというなら、その下着は、なんなの?”とは、婦長は問わずに。
「……宇崎家から」 代わりに口にしたのは、そんな言葉だった。
「こちらの対応について、非常に満足していると。そのように言ってきたそうよ」
事務的に話そうとしても、どうしても苦いものが混ざってしまう。
つまり、“現状維持”で“口出し無用”という通告である。
当然ながら、病院側は、全面的にその意向に沿う方針だった。
「担当の先生の診断では、あと一週間ほどで退院できるだろうということです。それまで……引き続き、あなたに担当してもらいます」
「……はい」 なんのことはない、それだけの用件である。
ハナから、婦長は佐知子を糾明する気などなかった(出来ない)わけであり、最初にかたちだけ説明を求めて、佐知子の素っ気ない否定を聞くだけで話を打ち切ってしまったのも、そのような次第からだった。
婦長は、疲れたように、深く椅子にもたれると、
「……若いナースでは、万が一の間違いもありうるかと思って。それもあなたを担当にした理由のひとつだったのだけど……」
独りごとのように、呟いた。
結局、そんな心情を聞かせるために、佐知子を呼びつけたのだった。
立場としては、佐知子と宇崎達也の関係を追及はできないが。
信頼していた部下に裏切られた上司としての感情をぶつけるために。
……それで、佐知子が迷妄から覚めてくれないものかという、希望もこめて。
だが。
相変わらず、氷のような無表情を保つ佐知子の胸の内を知ったならば、婦長は、あらためて絶望することになっただろう。
佐知子は、わずかに項垂れて、慫慂として、婦長の言葉を聞いていた。
それは演技した態度ではない。
婦長の心情は理解できたし、その嘆きには胸を痛めてもいる。
悲嘆され、失望されても仕方のない、いまの自分だということも自覚できたが。
けれど……と、思ってしまうのだ。いまの佐知子は。
しょうがないではないか、と。
知ってしまったのだから、自分は。
女として生きていくうえでの、最大の喜び。唯一無二の幸福。
逞しい、力に満ちた牡に愛され貪られることの、肉と魂の歓悦を、この身体の奥深く、刻みこまれてしまったのだから。
他のなによりも、その悦びを優先させてしまうのも、無理もないことではないか、と。
開き直るという意識すらなく。ごく自然に、そんな思いをわかせてしまうのだった。
佐知子は、上目づかいに、そっと婦長をうかがった。
佐知子より、十歳ほど年長の上司だが、整った顔立ちにも、すらりとした痩身にもまだ女らしさを残している。当然、既婚者で、夫も健在、すでに成人した子供もいたはずだ。
(……でも、このひとは知らないのだ)
つい先日までの自分が、知らなかったように。
本当の、女の悦び、真の快楽というものを、知らないのだと決めつける。
だって、達也のような素晴らしい牡が、そうはいるはずがないから。
……ああ、だから、誰も私の変化を理解できないのだな、と悟った。
それが、どれほどに深い悦楽であるか。実際に味わった者にしか……。
「……越野さん?」
怪訝そうに、婦長は呼んだ。重たい沈黙の中で対峙していたはずの佐知子の気配が変わったことに気づいて。
……まさか、こんな場面でさえ、佐知子が愛欲の記憶に血肉を熱くしているとは。
そして、そんな愉悦の記憶を持つことに、優越を感じているなどとは、想像できようはずもなかったが。
それでも、静かに見つめかえす佐知子の濡れた瞳の底に蠢く、得体の知れぬ情感には。
ゾクリと、背筋を寒くせずにはいられなかった。
-19-
……愚かしい幸福に、頭の天辺まで浸りこんだ佐知子の妖しさは、婦長を戦慄させたが。
達也が-そんな変貌を佐知子に齎した魔物的な少年が、その遣り取りを見ていたら、ただ冷笑したことだろう。“色ボケ”と簡単に、しかし正確に佐知子の現在の状態を言い表して。
実際この時、佐知子のいない病室で、三人の悪ガキどもは、まだ彼女を肴にして笑っていたのだった。
「おお、これが」
大袈裟に反応して、高本は、達也が引っ張り出してきた品物を手にとった。
「これが、越野ママが、プロポーズに使ったコンドームですかい」
高く掲げて見せた、小さな四角形は、特徴もない安物の避妊具だったが。
高本が口にした由来、“佐知子が、達也への意志表示として渡した”といういきさつで、彼らにとっては、お宝になるのだった。
「そうだよ。いい年こいて、小娘みたいに真っ赤っかになってさ。震える声で“こ、これを…”とか言いながら手渡された、ありがたい一品ですよ」
「ギャハッ、越野ママ、プリチーじゃん」
「まあな。さすがの俺も、驚いた。こう来るとは、思わなかったからな」
「達也は、こんなもの、使ったことないからだろ」
「そうね」
「やっぱ、ナマだよねえ」
「いまじゃ、佐知子のほうが、中出ししてもらわにゃ満足できなくなってっから」
「うひょ、やっぱ淫乱なんだな、越野ママ」
「とびきり、だよ。子宮に、たっぷりブっかけてやった時のあの女の顔。マジ、エロいぞ」
「ああ、もう……どうして、そう煽ってくれるかなあ、宇崎クン」
股間をおさえて身悶える高本を笑って。
「……どうした? 浩次」
市村は、高本からまわってきた“佐知子のコンドーム”を手にして何事か考えこんでいた。
「これ……どうしたのかと思ってさ」
「は?」
「どうした、って。買ったんじゃない?」 しごく真っ当な答えを口にする高本。
「宇崎クンに、ハメてほしい一心でさ。慌てて、買いにいったんじゃん?」
「……やっぱり、そうなのかな」
「なにが言いたい? 浩次」 うーん、と市村は、軽く唸って、
「高本の言うとおり、達也に渡すために買い求めたのかもしれない。 あるいは……もともと、持ってたのかもしれない」
当たり前といえば当たり前なことを言った。
「もともと……亭主が生きてた頃に、使ってたものだってか?」
「でも、それって、十年も前だろ? 賞味期限、切れてんじゃん?」
「賞味期限、て」
「……死んだ亭主の使い残しかもしれないし、そうでないかもしれない」
また、曖昧な言葉を市村が口にして。
ようやく、達也の眼に理解の色が浮かんだ。
「つまり、使うあてがあって、常備してたってか?」
市村の言わんとすることを、理解はしたが。
「いやあ……そんな感じじゃなかったけどなあ、あの女は」 承服できずに首をひねった。
篭絡過程で佐知子が見せた、年甲斐もなくウブな反応の数々は、独り身をいいことに適当に遊んできた女のものとは、到底思えなかった。
「身体もさ、熟れてるけど、てんで開発されてなかったし」
そう言うと。市村は、ああ、と頷いて、
「俺も、男がいたとは思わないんだけど」
「はあ? なにそれ」 と、高本も、わけがわからんといった顔で、
「被せるチ○ポもないのに、ゴムなんか用意してたって、意味ないじゃん」
「いや。チ○ポなら、あるんだよな」
「へ?」
「多分、まだ未発達な、子供のチ○ポが一本。あることは、ある」
「それって……」
「間違っても、妊娠だけはヤバいから、そりゃあ、避妊にも神経質になるだろうってのが」
「……マジですか?」 シン、とした空気になった。
「ま、憶測だけどね。俺の」
「根拠は?」
と、達也が聞いた。市村の想像を、笑い飛ばす気はないようだった。
「根拠ってほどのものは、ないな。越野裕樹と話したとき、母親のことに触れると、やたら過敏っていうか。妙な反応だなって感じたのを、思い出した」
ヒラヒラと、指先に摘んだコンドームをふって、
「これを見たら、思い出して。そう考えれば、辻褄が合う気がした。それだけ」
「や、でもさあ、あれは、越野がマザコン野郎だからじゃん?」
「マザコンだから、そういうことにもなりうるんだろ。マザコンの息子と、甘い母親って組み合わせだと」
「でもさあ……キンシンソーカンって、やつだよね?それ」
「まあ、それほど珍しくもないんじゃん?…って、あくまでも俺の想像だけど」
「…………確かめてみる価値は、あるな」 達也が言った。かなり、気を引かれたようすで。
「それで。もし、浩次の推測のとおりだったら…」
ニヤリと。酷薄な笑みに口の端を歪めて。
「そんな重大な秘密を隠してた、淫売ママさんには。タップリと仕置きして、矯正してやらなきゃいかんと。そう思わないか?」
◆◆◆
……その夜。越野家。
裕樹は、静かに開いたドアの隙間から、脱衣所へと入りこんだ。
中は明るく、浴室からはシャワーの音が聞こえている。
無論、風呂を使っているのは佐知子でありくもりガラス越しにボヤけた肌色の影が見えた。
それに急かれたように、裕樹は慌しくシャツとブリーフを脱ぎ捨てた。
他の着衣は、居間で脱いできてあった。
華奢な裸身をさらして、忍び足にガラス戸へと近づく。
例のごとく狭い空間を満たした母の甘い匂いと、ガラス越しに見える肢体、なによりも、これからの行為への期待に、小さなペニスは固く屹立していた。
音を立てぬように、慎重に浴室の戸を開ける。
床を打つ水音が大きくなり、熱気が溢れてきた。
そして、湯気の向こうに、白く豊艶な母の裸身。滑らかな背中と豊かな臀をこちらに向けて、熱いシャワーを浴びているところの。
明るい照明の下に濡れ輝く、グラマラスな肉体の官能美に打たれて、自制をなくした裕樹は、飛びかかるように抱きついていった。
「キャアッ!?」 魂消た悲鳴を上げて、咄嗟に侵入者を振り解こうと身もがく佐知子。
「な、なにっ? ……裕樹…?」
ようやく、背後から抱きついているのが息子だと気づいて、ホッと安堵の息をつき、力を抜いた。
「もう…ビックリするじゃない、いきなり。どうしたの?」
問い質す言葉は、つい難詰する調子になってしまった。
事前に了解されていた行動ではなかったから、無理はないところである。
裕樹は、母の胴にまわした両腕にギュッと力をこめて。
濡れた背に頬を擦り寄せるようにする。
「ちょっ、裕樹ってば、いったい…」
頑是無い、といった態度に困惑しながら、佐知子は、ひとまずシャワーを止めて。
体をねじって、後ろにまわした腕で、ピッタリと貼りついた
裕樹の小さな体を抱くようにして。
「ねえ、裕樹、どうしたの?突然、こんなこと」 声を優しくして、また訊いた。
「……ママ…」
やっと顔を上げて、裕樹は潤んだ眼を母に合わせて、切ない声で呼んだ。
悶えるように腰を擦り寄せて、未熟な勃起の先端を、佐知子の柔らかな太腿に押しつけた。
「……あ…」
「僕、もう我慢できないよ、ママ」 切迫した声で、裕樹は訴えた。
これまでにない強引なアプローチは、裕樹自身にしても突発的な行動であった。
夕食後、今日も佐知子が先に入浴して。また、今夜もおあずけになるのかとやきもきするうちに、我慢できなくなったのだった。
「……裕樹…」 溜めこんだ欲求に衝かれる裕樹の苦しみは、佐知子にも伝わった。
しがみついて、切ない眼で見上げてくる表情に、胸を締めつけられる。
それは、ここ最近忘れていた、母としての感情だった。
「……したいの…?」 裕樹の薄い背を撫でながら、柔らかく尋ねる。
いまさらな問いかけに、裕樹は強く肯いて、
「したいよ。だって、ずっと、してないじゃないか」 恨むように拗ねるようにそう言った。
「そう…? そう…ね…」
言われて気づいた。息子との房事から、しばらく遠ざかっていたことに。
それどころではなかった、というのが率直なところだった。
日々、病室で達也との淫戯に耽溺して。家に帰るときには、全身に、激しい情事の痕跡とグッタリとした疲労を残しているのが常だった。
裕樹に気取られぬように、帰宅後すぐにシャワーを使って。
夕食の用意。母親としての仕事をこなす。(食卓に並ぶ料理には出来あいの惣菜の割合が増えつつあったが)
食事のあとの本格的な入浴の時間が長くなったのも、昼間の達也との行為のゆえだった。
ゆっくりと湯につかって、全身の肉を揉みほぐす。
心地よい疲弊と甘い痺れを肉体に刻みこんだ若い情人のことを、彼との濃密な時間を、うっとりと思い返しながら。
そうして。その日の達也との記憶を夢心地にふりかえった後は、翌日に備えるための作業が待っているのだ。
全身を徹底的に洗い清め、磨きたてる。達也に揉まれた乳房も、達也に吸われた首も、達也に撫でられた腹も、達也の眼前で踊りくねらせた腰も狂ったようにふりたくった尻も、達也の身体を締めつけた太腿、達也の肉体を愛撫した指先から、足の爪先まで。
無論、達也を迎え入れ、大量に欲望を注ぎこまれた部分は、特に念入りに。
佐知子は一心に磨きあげる。明日も、また同じように、達也の手に触れてもらえるように。
その思いで、清めた身体に念入りな手入れを。高額なスキン・ケア用品をいくつも買い求めて、効果を比べながら。
幸い、肌の調子は好調で、数年も若返ったような張りとつやを取り戻している。
これも、身も心も満たされているせいかと幸福な満足を感じながらも、なおも細心の注意を払って、衰えの徴候を拭いさる作業に没頭して。
ようやく。長い入浴タイムが終わる頃には、佐知子はクタクタになって早く眠りにつくことだけを求める状態になっているのだが、それでいいのだ。
明くる日にもまた、疲れを知らぬ若い牡に立ち向かうために、充分な休息が必要だから…。
……それが、ここ最近の、佐知子の夜の生活パターンだった。
裕樹との相姦の秘め事が入りこむ余地など、どこにもなく、久しく、それから遠ざかっていることさえ、佐知子は意識に上らせなかった。
つまりは、すっかり忘れていたということであり、それを自覚すると、
「僕、ずっとしたかったのに。ママ、いつもさっさと寝ちゃうから」
甘ったれた口調で訴える裕樹に、すまないことをしていたという思いがわいて。
「ごめんね」 佐知子は、そう謝りながら、裕樹の背にまわした腕に力をこめた。
達也との関係が生じてからは、秘密を隠す対象としてしか意識していなかった我が子への母性愛を呼び起こされて。
「ごめんなさい、ママ、最近疲れていたから」
身体を回して、裕樹と向き合うかたちになる。
裕樹は、重たげに揺れながら眼の前に現れた、ママの懐かしい大きなオッパイに、視線を吸い寄せられながら、
「う、うん。ママ、仕事が大変なんだなって、それは解ってるんだけど…」
少し、すまなそうに言った。
「…………」
そのあたり、佐知子にとっても都合のよくない話には、それ以上言及せずに。
佐知子は、目線を下へと移した。
「……こんなにして」
幼いなりに、精一杯に欲望を主張する勃起を見つけて、自然に手が伸びた。
「あっ、マ、ママッ」
「フフッ」
母の柔らかな手指にペニスを握られる、しばらくぶりの刺激に、ビクビクと華奢な腰をわななかせて、悲鳴のような声を上げる裕樹。
その可憐な風情に眼を細めながら、佐知子はゆっくりと膝を落とした。
指をからめた、未熟な屹立を正面から眺めることになる。こんな明るさの中でマジマジと見つめることは、これまでほとんどなかった。
「……裕樹、少し、オチンチン大きくなった?」
そのせいか、裕樹の溜めこんだ欲求のせいなのか、いつもより大きく見えた。
「そ、そうかな?」
歯を食いしばって、滑らかな母の掌の感触に耐えながら、それでも少し誇らしげに裕樹は聞き返した。
「成長期だものね……」 息子の成長を喜びながら。
しかし……それでも、達也とは、まるで違うと。佐知子は、どうしても比べてしまう。
発育の差、などとは到底片づけられない、もっと厳然たる差異。
大きさも形も、熱さ硬さ、それから伝わる精気も。すべてが、あまりにもかけ離れていて、同じ器官とも思えないほどだ。
間違っても、いま裕樹のオチンチンを見て感じるような“可愛い”などという感慨など持ちようもない、達也の肉体である。
いつも、その怖いほどの逞しさと、肉の凶器といった姿形を見せられただけで、甘い屈服の感情に包まれてしまう佐知子である。
(……仕方がないわ。達也くんは、特別だから……)
との述懐は、裕樹を庇うようにも聞こえたが。
しかし、そう呟いた佐知子の胸にわいていたのは、まぎれもない誇らしさであった。
“特別な牡”である達也、その達也の女である自分を誇る感情が。
いまは、母として裕樹に向き合っていたはずの佐知子の心を、ズルリと浸蝕して。
佐知子の双眸はボヤけて、裕樹の屹立を握った手が淫猥な蠢きを見せる。
爪の先で、包皮が寄り集まった小さなカリの付け根を掻くように弄って。
先走りを噴きこぼす鈴口を、くすぐる。
身につけたばかりの巧緻。軽い戯れの愛技。
「ああっ、マ、ママッ」
しかし、この時、佐知子の手の中にあったのは、どんな熱烈な愛撫にも平然と持ちこたえる、不死身の肉鉄ではなかった。
それでなくても、鬱積した欲望に逸り、いつもと違う状況で眺める母の濡れた裸体の艶かしさに昂ぶっていた裕樹は、突然の鋭い刺激には耐えられなかった。
「アアッ、で、出ちゃうよッ」
そう叫んだ瞬間には、すでにビクビクと震えるペニスの先端からは、第一波が噴き上がっていた。
「…えっ?」
「あ、出る、出るッ、アアァ」
虚をつかれたような声を上げて、佐知子は慌てて裕樹の亀頭から指を離し把握を緩めたが。
堰を切られた奔流は、なおも連続してビュクビュクと弾け出して、 被せるようなかたちになっていた佐知子の掌を打った。
「…アッ…ああ……」
噴出を終えると、裕樹は感に堪えた声を洩らして、脱力する。
ベタッと尻もちをつく姿勢で、ヘタりこんでしまった。
「……もう、出しちゃったの?」
まだ、呆気にとられたまま、佐知子が訊いたが。
現に、佐知子の片手は裕樹の吐き出した欲望にベットリと汚れているのだから、
確認にしかならない。
「うん……だって、ママ、すごくキモチいいところに触るんだもん」
遂情の余韻に浸って、陶然と答える裕樹。
「それだからって…」
軽く嘆息して。佐知子は、後ろ手をついて、細い両肢を広げて、グッタリと虚脱のさまをあらわにする息子を眺めた。
「だらしないのねえ……」
そんな言葉が洩れた。軽い調子、責めるような物言いではなかったが。
しかし、呆れの感情は、確かにこめられていた。
「…えっ?」
思いがけぬ母の科白に、裕樹が目を見開く。そんなこと、いままで一度も言われたことがなく。だから、呆気ない行為にも、恥ずかしさなど感じたこともない裕樹だったから。
佐知子は、裕樹の驚きには答えることなく、悩ましく腰をよじって、手桶に浴槽の湯を汲むと、まずは自分の手にかかった裕樹の吐精を洗い流して。
それから、裕樹の股座を清めた。ゆっくりと湯をかけながら、這わせた手で、しぼんだ性器や薄い陰毛にこびりついた白濁を落とした。
その手つきは優しくて、過敏になっているペニスに感じるジンワリとした刺激に裕樹は喉を鳴らしたのだが。
「……そんなんじゃ、彼女が出来ても、喜ばせてあげられないわよ」
笑い含みに告げられた言葉に、また吃驚して、母の顔を見やった。
佐知子は、いたずらっぽい笑みを浮かべて、からかうような色を瞳に浮かべて裕樹を見ていた。その顔を見れば、他愛もない冗談なのだとわかるが。
それでも、裕樹には心外だった。
彼女や恋人なんか、ほしいとも思わない。誰よりも優しくて綺麗なママさえいればいい。
いつまでもママといられれば、それでいい。
心の底から、そう願っている裕樹であり。
その思いはママもわかってくれているはずなのに。自分と同じ思いを抱いてくれてると信じているのに。
冗談や軽口にしたって、そんなことを言うなんて、と。
(……いままでは、こんなこと言ったことないのにな、ママ)
そう考えて、不機嫌になって。
しかし裕樹は、それが、母に生じた変化の徴候であるとは気づけない。
これまで決して口にしたことのない裕樹の脆弱さを揶揄する科白を、ポロリとこぼしてしまうあたりに、佐知子の意識の豹変ぶりが覗いていたなどとは。
母に向ける裕樹の信頼は絶対だから、疑心などというものは、兆しもしない。
だから、ここでも裕樹は、単に不注意な母の物言いに不快を感じただけで。
その不機嫌さも。
ザッと裕樹の股間を流したあとに、スポンジにソープを泡立てて、
「さ、座って」 腰かけを差し出して、そう促した母の態度に、ウヤムヤにされて。
「そういえば、裕樹と一緒にお風呂に入るのも、久しぶりね」
そんな佐知子の言葉に、奇妙な照れくささと嬉しさを喚起されて、優しく身体を洗われれば、その心地よさに浸りこんでしまう。
佐知子も、まだ共に入浴していた頃のことを(といっても、それほど昔でもないのだが)思い出してか、愉しげに、いかにも母親らしい甲斐甲斐しさで背中だけでなく、胸や腹も流していった。
母子みずいらず、という打ち解けた雰囲気が嬉しくて、
「……こらっ」
「ウフフ…」 裕樹は、眼の前で揺れる母の豊満な乳房に手を伸ばして、叱られる。
いまは欲望は薄れているから、じゃれかかるように大好きなママのオッパイを触って。
馴染みの柔らかな感触を掌に味わって楽しむ。
「もう…」
佐知子は呆れるような声を洩らして。だが、それだけで、息子の甘えかかるような乳房への玩弄をゆるした。
ソープの泡をまぶしながら丁寧に擦りたてる母の手に、されるがままに任せていると、裕樹も幼い頃に戻ったような気持ちになって。
ママのオッパイを掴みしめる手の表情も、無邪気なものとなる。
「ヘヘ…」
大きくて、あくまでも柔らかな肉房に指を沈めるだけで、自然に笑いがこみ上げてしまう。
「本当にもう……赤ちゃんみたいね。オッパイばっかり」
佐知子が苦笑する。赤ちゃん、という言い方は、ちょっと気にさわったが“まあ、今はいいか”と裕樹は流して。それならと、もう一方の手も母の胸へと伸ばしかけたのだが、
「ほうらっ。ダメよ、洗えないでしょ」
その腕は佐知子に捉えられて、ゴシゴシと磨かれていく。
……と、佐知子は、裕樹の二の腕の細さを確かめるように握って、
「……裕樹も、なにか運動すれば、少しは逞しくなるかもね」 ふと、呟いた。
「……えっ…?」 裕樹は、ショックを受けた顔で母を見た。
身体の成長が遅れていることは、常々裕樹が気に病んでいることであり。
その慨嘆を洩らすたびに、心配ないと元気づけてくれていた母なのに……。
「……ママは、逞しいほうが、いいの?」
硬い声で訊かれて、今度は佐知子があっと慌てた表情になる。
「そ、そんなことじゃないのよ」
迂闊な言葉を洩らしてしまったことに気づいて、急ぎフォロウする。
笑顔が引き攣ったのは、裕樹の問いかけのかたちに、ヒヤリとさせられたせいだったが。
しかし、子供っぽく口を尖らせた裕樹は、佐知子の意識を読んで、あんな訊きかたをしたわけではないようだった。佐知子の述懐が、誰か特定の人物と裕樹をつい比較してしまったためのものであったとは、気づいていなかった。
「大丈夫よ。裕樹だって、そのうち、ちゃんと大きくなるわ」
意識して声を明るくして、佐知子はお決まりの慰めを口にしたが。
「…………」 そうスンナリとは屈託を消せないようすの裕樹を見て取ると、
「ほら、ここだって…」 佐知子は、やおら手を伸ばして、裕樹のペニスを掴んだ。
「あっ」
「ちゃんと、成長してるんでしょ?」
…いまは、チンマリと縮こまって、先っぽまでスッポリ皮を被った可愛いオチンチンには、あまり真実味のある評価とも思えなかったが。
佐知子は、短い胴部に掌の泡を塗りこめるようにしながら、指先でズルリと包皮を引き剥いた。不都合な会話を、うやむやに誤魔化そうとする強引な振る舞いだったが。
「アッ、アアッ」
過敏な先端部に、ヌルヌルとした石鹸のぬめりをまぶした母の手指の感触を受けて。
裕樹は可憐な声を上げて、ビクビクと腰をわななかせた。
鋭どい刺激に気を奪われて……つまりは、他愛もなく誤魔化されてしまったわけである。
ぬめる手に弄われるペニスには、ジンワリと力が蘇ってくる。“ムクムクと”とか“急速に”とはいかないが。それでも、母との閨房でも、いつも一度欲望を遂げればすぐに眠りに落ちてしまう裕樹にすれば、稀有な現象だった。
しかし、裕樹が、もっとハッキリとした復活の兆しを見せる前に、佐知子は手を離してしまった。
「……あ…」
強すぎる感覚が途絶えると、裕樹は、ホッと安堵するような、物足りないような、あやふやな気分になった。
佐知子は立ち上がって、シャワーのノズルを取った。
座った裕樹の眼前に、母の豊満な下肢の肉置。濡れて色を濃くした恥毛に縁取られた小高いデルタに視線が吸い寄せられる。
そんなことは気にもとめずに、佐知子は、シャワーの水流を自分の手にあてて温度を確認すると、またしゃがみこんで、
「はい、流すわよ」
「……うん…」
快適な熱さの湯流と佐知子の手によって、全身の泡を洗い落とされながら。
裕樹の眼は、母の、重たげに揺れる乳房や、片膝立ちの姿勢でムッチリとした量感を強調する太腿、
その付け根の秘めやかな部分を、舐めるように眺めた。はっきりと、情欲の色をたたえて。
……チンチンが、ムズムズした。
……湯船につかって。裕樹は母の背姿を見つめている。
きれいに石鹸を流した裕樹を湯に入らせて、佐知子は、今度は自分の身体を洗っていた。
片肘を上げて、脇腹をスポンジで擦っている母の、かすかに浮き上がった肩甲骨が妙に艶かしくて、裕樹は眼を引きつけられる。
考えてみれば、このように母の裸を後ろから眺めたことなど、ほとんどなかった。
寝室では、いつも抱き合うかたちで睦みあっていたから。
母の滑らかな背中、円い巨きな臀(腰かけがやけに小さく心許なく見えた)
髪をタオルで巻いて露にしているうなじ……。
それら、すべての景色が、息苦しいような昂ぶりを喚起する。
湯の中で、ペニスは、ほぼ完全な勃起状態を取り戻していた。
さっき、出したばかりなのに……と、裕樹自身も驚きを感じている。
いつもより長いブランクのせいもあるだろうし、暗い寝室ではなく明るい浴室でという環境の違いのせいでもあろう。
しかし、それだけではないのだ。
母の、ぬめ輝く白い裸身を凝視する裕樹の眼には、牡の欲望が燃えていた。

Last Update : 2008年12月04日 (木) 7:46