気の強い妻(逆転)②

これは妻の正直な気持ちでしょう。何年にも及ぶ肉体関係。
これで男に愛情が全く無いと言うのなら、人間としても失格です。
そんな男と関係を続けられる人間は私は認めません。

この複雑な感情が完全に大胆にはなり切れなく、勝手な行動にも言い訳を考えたと言います。
それでも私への苛立ちが大きい時には、冷たい態度で無口になったそうです。
妻の気持ちも分からない訳では有りませんが、そんなものを認めたら多くの主婦が不倫に走るはずです。
あ~~そうか。だから何処でもこんな話題が溢れかえっているのか。嫌な時代ですね。
こんな時代だから妻も流行りに乗ったのかな?いやいや、そんなに私は物分りがよくは有りません。
此処で一歩も引く訳には行かないのです。

「それで如何したい?男を愛してしまったのなら、愛人にでもなったらいいさ。
俺と居るよりその方が幸せになれるかも知れない。俺との生活はきっと切ないと思う。そう言えば、お前達会社では如何なりそうだ?
当てて遣ろうか?そうだな、男とお前の関係は社内で公然の秘密だった。みんな知っていたんだろう?あの位の規模だ。
気付かれない訳が無い。男は体裁上降格か?首にはならないな。
社長も知っていた以上、解雇は出来ないだろう。お前は因果を含められて解雇だろう?」

私が言葉を挟みました。

「・・・・ええ、大半の人は知っていました。社長も専務も知っていたのに止めてはくれなかった・・・・
少し違うのは貴方の言う通り私は自主退社の形で、専務の知り合いの会社に入れてくれるって・・・・
私の口から事実が漏れて、貴方が全てを知って会社を訴えでもされたら困るからだと思う・・・・
私への口止め料だと思っています・・・・離婚になっても困らない様に仕事を世話してくれたんでしょうね・・・・」

社長が手を出そうとした女を部長がものにした。
お互い様だからノープロブレム。専務とやらも止めさせはしない。何を考えているのか。
こんな事は日常茶飯事な馬鹿会社なのでしょうか?
そう言えば以前、この会社は親族会社だと妻は言っていました。
たいして興味も無いのでよく聞いてはいなかったのですが、確か社長の上に創業者の会長が居て、この人はたまにしか出社しないそうですが、社長の父親で、専務は会長の弟だったと思います。
そんなぬるま湯的な会社に、少々仕事の出来る部長が居る。
あの男は社長親族からの信頼が厚い。そんなところでしょう。
先頭に立つ指導者に恵まれない社員は不幸です。
こんなんじゃ、この会社は先細りだと思いますが自業自得でしょう。

「・・・私に迷いは有りません。貴方が許してくれるなら此処に居たい・・・・仕事はしません。
貴方と子供達の為に尽くします。
子供達にもちゃんと謝る・・・・許してくれるまで謝る・・・・
でも貴方が許してくれないなら、専務の紹介してくれた会社に行きたいと思っています。
だって私も生活して行かなければならないもの・・・・」

妻は何を血迷っているのか。
私は妻の言葉を脅迫だと受け取りました。
私が許せば元の妻に戻るが、許さないなら男との関係は絶たない。そんな意味に受け取られます。
彼女は私の出す結論をもう理解しているのでしょう。
これだけ長い歳月を共にしたのですから、此方の性格は熟知していると思います。
1人で生きて行くのなら仕事は必要でしょう。年齢的に収入のある程度高い仕事に就くのは難しい。
専務の紹介した所で有れば、その辺は約束されているのだと思われます。
そうで有るにしても、此処では言い方が違うのでは無いでしょうか?
その後は何も決まっていないけれど、とことん私に許しを乞う。
それが道筋だと私は思います。
予め線路を引き、こっちが駄目ならこっちに行こうなんて妻のした事を思えば言える内容では無いと感じます。

「そうか。お前はしっかりしてるな。俺が駄目ならあの男とは別れないと言ってるのか?そんな考えなら俺はお前を許せ無い」

「そっそんなつもりで言ったんじゃないの!」

「お前、両天秤に掛けてるな。俺もこの年だ。気持ちが分からない事も無いさ。
何年も関係の続いた男をすぐに忘れるなんて出来ないだろう。
だけどな、俺に許して貰いたいと思うなら全て忘れてからにしてくれ。
幾らなんでも失礼だ。さあ話しはその位でいいだろう。俺は寝るから出て行ってくれないか」

一旦躊躇した妻は大胆な行動に出ます。
私の前で服を脱ぎ始めたのです。
その下からはこのところ見る機会の無かった若い時の様な張りは失っても充分に白く綺麗な裸体が現れました。
私には見せないで、あの男に見せていた汚れた裸体が。

「言い訳が通じなかったら今度は色仕掛けか?」

そんな言葉を妻に投げ掛けましたが、あの男にどんな事をし、どんな事をされたのか興味が湧きます。
男って生き物も如何仕様もないな。

 逆転 13
俺は男だ! 6/4(月) 04:49:29 No.20070604044929 削除
妻の身体から視線を外せないでいるのをいい事に、ベッドの中に入ろうとします。
私とて男ですから暫らくぶりの妻の身体に息子が反応してしまうのはしょうがない事でしょう。
寝取られ趣味は無いつもりですが、あの男に如何抱かれたのか、また妻はそれを如何受けて立ったのか興味が湧くのです。
そんな気持ちが前面に立ち1度はその気になった私でしたが、此処で負けては妻の思い通りです。精一杯の抵抗をしましょう。

「止めてくれないか。俺にそのつもりは無いよ。他の男に触りまくられたお前の身体を如何して俺が抱ける?
たとえ何千回洗ったとしても真っ平御免だ。まして気持ちはあいつに残して来ているだろう?
嫌々抱かれるのは止せ。俺もお前も虚しくなるだけだ。
・・・そんなお前を抱くくらいなら愛も無く客に身体を預ける風俗の女の方がまだましだ。頼むから此処から出て行ってくれないか。
まだ話が有るなら後で聞こう」

「気持ちを残して来てるなんて・・・・・」

妻が悲しそうな表情を浮かべました。
服をはおり出て行く後姿も寂しげでした。
男を思い、私を思い、あんなに悲しそうなのか?
如何してこんな夫婦になってしまったのだろうか・・・
気の強い妻に嫌気がさして、私は離婚願望に取り付かれていました。
人間なんて欠点を挙げればキリが無いでしょう。
特に私はその典型です。
言い訳をさせてもらえば、夫婦生活は毎日の続くものだけに、ボディブローのようにダメージが蓄積して行きました。
毎日、毎日蓄積して行ったのです。自分の中の限界を超えた時に妻への拒絶反応が芽生えていました。
もっと戦えばよかったのです。
それを拒否し逃げていた結果がこれです。
妻の容姿は連れて歩いても自慢の出来るものです。
あのきつい性格も私がもっと愛情を注いでやれば何とかなったのかも知れません。
そうしたなら、誰もが羨む夫婦になれたのかも・・・・
もっと私に甲斐性が有れば等と考えているうちに窓の外が明るくなって来ています。
浅い眠りについて間も無く妻の声で目が覚めました。

「貴方、起きる時間です」

睡眠不足のボーーとした頭で洗面台に向かうと、妻はもう身支度が終っていました。

「何処かへ出かけるのか?」

「会社に行きます。まだ引継ぎも残っていますし」

「正気か?どの面下げて会社に行くんだ?常識で考えてみろ。お前が言った事は嘘か?
行くなら行ったらいいさ。その代わりもう帰る家は無いと思ってくれ」

「・・・・・・・」

私達夫婦の会話を子供達も聞いています。頭が呆けているのでそこまで気が回らなかった。
長女は素知らぬ顔をしていますが、次女の方は心配そうに妻を見ていました。
妻と気の合うこの子には妻が哀れに映るのでしょう。
可哀想な事をしてしまいました。
そんな日は仕事にも気が乗らないのでした。
その夜帰宅すると妻が出向かいに来ます。

「今日会社には行きませんでした。私も貴方の気持ちをもっと考えればよかったと反省しています。もう行きません。無神経でごめんなさい」

無言で居間に入ると、次女が夕食の仕度をしています。

「お父さんお帰りなさい。今お母さんとご飯の用意をしていたの。お父さんの好きなもの作るからもう一寸待ってて」

如何やら妻は次女の機嫌を取った模様です。
この子は母親っ子でどちらかと言えば妻の見方でした。長女は妻の性格を受け継いでいますが、次女は私の分身です。
要するに甘えっ子なのです。
何とか私達の仲を取り持とうと考えているのかと思われます。
これは強敵出現です。
居間に戻った妻は、次女と楽しそうに夕食の準備を再開し始めました。
その姿は何事も無い、幸せな風景です。
食事時間も長女は降りて来ませんでしたが3人で普通にするのでした。
私は妻とは会話しませんが、次女が何とか話題を共有しようと明るく振舞います。
その姿がいじらしく、私は迷惑とも思いましたが合わさずにはいられませんでした。
そんな時間も何とか乗り切りましたが、食事後も私達を話しに巻き込みます。
夜も更けやっとそんな時間から開放し、自分の部屋に戻ろうとする娘が振り返り私に声を掛けました。

「お父さん、私やっぱり・・・・」

そう言い掛けて言葉を飲み込みます。大きな瞳に涙が溜まっている様に見えたのは気のせいでしょうか。
その後の言葉が出ないまま、部屋に戻ろうとする次女を複雑な気持ちで見送るしか有りません。

「あの子は貴方に何度も謝れって・・・・謝って許してもらえって・・・・
私のした事は皆を傷つけた・・・本当にごめんなさい。貴方・・・
許して・・・許して貴方・・・・」

妻は私の前で深々と頭を下げ涙をこぼします。

「・・・・駄目だな。俺の許せる範疇を越えてる。嘘をついて何か高価な買い物をしたのとは訳が違う。
子供達には悪いが、あの子らにはこれからの人生が有る。
何時かはこの家を出て行く時が来るが、俺達はその後如何する。俺は我慢できるとは思えない」

もしも妻を愛していたとしても、私は不倫を働いた女を許せ無いでしょう。
まして離婚願望の強い私には考える余地も有りません。
それにしても、あの子の気持ちを考えると・・・・

「そんな事言わないでもう少し考えて・・・・私に時間を下さい」

妻が食い下がります。私は妻に意地の悪い仕打ちを仕掛けました。

「お前、あいつは会社で降格位で済むと言ってたな。それは都合がよすぎるな。それも一時的な降格だろう?
そんなに世の中甘くは無いよ。社会的制裁が如何言うものか教えなければならないな。
まずは、あいつの家庭からはじめようか。あいつの家の電話番号を教えろ。奥さんにちゃんと話をしよう。
奥さんに罪は無いが、知っておいた方が今後の為だろう。可哀想だが仕方が無いさ」

「それは止めて。それは堪忍して下さい。奥さんには何の罪も無いの」

相手の奥さんに自分達のした事が分かるのが怖いのか、それとも男を気遣っているのか分かりませんが、それでは妻も甘いでしょう。
男に気持ちを残しているのだとしても私には関係が無いと思っていました。しかし私にも意地は有るのです。

「あいつを庇うのか?庇っているんなら、あいつにまだ気が有るな。
まあいいさ。お前が教えなくても俺は知っているんだよ。
どんな態度を取るか試しただけだ」

立ち上がり電話に近づくと妻がその前に立ちふさがります。

「辛い思いをするのは私達だけでいいじゃない。関係の無い人まで巻き込まないで!あの人の家庭を壊さないで!」

必死の形相でまた無神経な言葉を口にしました。

「大丈夫か?頭が可笑しくなっていないか?関係の無い人じゃ無いだろう。充分に関係者だ。
お前達と違うのは被害者だと言うだけだろう?壊れるか壊れないかは向うが決める事じゃ無いのか。
それに辛い思いをするのは私達だけとは如何言う意味だ。私達とは何なんだ!」

ただ妻を試すだけに言ったのですが、態度を見て気が変わりました。
何とか阻止しようとする妻に嫉妬とは違う複雑な感情を感じました。
いや、それは嫉妬心なのかも知れません。
妻を払いのけ受話器に手を伸ばします。
電話の向うに聞こえる声は、おっとりとした優しそうなものでした。
その声に私は一瞬躊躇してしまいましたが、今更引き下がれ無いでしょう。

「ご主人は帰られましたか。帰られていなければ奥様にお話ししていいのか如何か・・・・」

男はまだ帰っていないと言います。
もし帰って来ていのなら、まずは男と話を仕様と思ったのですが居ないのらしょうが有りません。
これまでの経過をかいつ摘んで話をしました。
無言で聞いていた相手は静かな声を出しました。

「ご迷惑をお掛けして大変申し訳有りませんでした。主人が帰りしだい話をさせてもらいます。本当に申し訳有りませんでした」

私は自宅の電話番号と携帯の番号を教えて話しを終えました。
思いつきで掛けた電話は、後口の悪いものとなり後悔の念が湧き起ります。
男の妻は穏やかで静かな声で受け答えをしてくれました。きっと、大人しい人なのでしょう。
自分がした事の様に謝るあの人にまだ聞かせるべきでは無かったと反省しました。
私が起こした問題では有りませんが、自分が傷付けてしまった気分です。
電話を切り振り返ると妻は呆然とへたり込んでいます。

「お前達のおかげで嫌な思いをした。俺ばかりじゃ無い。あの奥さんもショックだろうさ。
可哀想に。もっと責任の重さを知るべきだ」

何で私がこんな思いをしなければならないのか。こいつら本当に腹の立つ奴らです。

逆転 14
俺は男だ! 9/24(月) 18:57:25 No.20070924185725 削除
私から妻には言葉をかけません。どんな行動を取るのか興味があったからです。
人事みたいな事を言いますが、私の心にそんな勝手な意地の悪い自分が存在します。
これが普通の夫婦なら、こんなふうには思えないのでしょう。
想像するのもおぞましい修羅場が展開しているのだろうと思います。
でも私達夫婦の間にはそんな光景はありません。その代わりに冷たい
空気が流れています。
その空気は主に私が作り出しているものなのでしょが・・・・・
本当は修羅場を演じている夫婦の方が健全なのだろうと、また人事みたいに醒めた脳が考えていました。
そんな私にとっての楽しい時間がどのくらい流れたでしょうか。妻の携帯から着信音が聞こえます。
久しぶりに聞く着信音は以前の聞き慣れたものとは違い一瞬何の音だかピンと来ませんでした。
携帯を取って相手を確認し慌てて部屋から出て行こうとする妻に相手が誰だかも知りました。

「此処にいるんだ!隠れる必要はない。此処で話しなさい」

その言葉に一瞬慌てたようです。

「はっはい」

素直に戻り話していますが、私の目を気にして辛そうです。
しかし、その内容からして会話の相手はあの男なのは明白なものとなりました。
男はわざわざ妻の携帯に連絡して来たと言うのは、どんな魂胆があっての事なのか?妻も如何してはっきりと話せないのか?
それは私に聞かれたくない内容だからに他ありません。
此処に及んでどんな悪知恵を働かせたところで、何の役にも立たないのに。
私も舐められたものです。
相手の会社に乗り込んで、あんな行動に出たのに、まだ私の本質に気付かないのは、妻が私の事をよほど見下して相手に話していたのかと思えるのです。
確かに事なかれ主義を通して来たのは私ですから、とやかく言えない
立場でもありますが腹が立つのを抑えられません。

「業とらしく聞くけど誰からなの?」

「・・・・・・・・・・」

「誰からなのか聞いているんだよっ!」

こんな時は穏やかにと思ってはいたのですが、苛立っている心を隠せず声に怒気をおびてしまいました。
別に穏やかに接するのが得策な訳でもないのでしょうが、格好を付けたがる私の癖です。
その声に妻が素直に応えたのは、本音ほど相手に伝わるものはないと言う事なのでしょう。

「・・・・岸部部長から・・・・」

口ごもるのは誤魔化したかったからなのでしょうが、出来る訳がないのに。

「お前に何の用事だ?また、お誘いか?お前達は懲りないな」

「そんなのじゃないわ・・・・・」

訴えるような眼差しを投げかけてきますが、岸部は由利絵に何の用で電話をしてきたかくらいは私も想像が出来ます。
そんな事は如何でもよく、別に追い詰められた気持ちでもないのですが、少し意地が悪くなっていたのです。

「ふ~~ん。じゃあ何の相談なのかな?もしも俺が奥さんに言ったのにクレームを付けているのならお門違いだと言ってやれ。
お前だって、あいつの思う通りには出来ないよな。文句があるなら俺に言え。くだらない男だな、まったく」

「・・・くだらない人だなんて・・・こんな場合は誰だって・・・・」

私達夫婦が如何なるかは成り行きまかせ。そんな投げやりな気持ちでも決して愉快な立場にいる訳でもないので、その言葉にカチンときたのです。
この期に及んで相手を庇うような態度に出るのは、とっさの事とは言え妻の本音なのでしょう。

「おいおい、立派な男が人の妻に手を出して尻拭いも出来ないのは
何故だ!お前に話す前に俺に詫びるのが順番なんじゃないかっ!
何が、くだらない人じゃないだ!勝手な事を言いやがて!そう出るなら此処から叩き出すぞっ!」

自分でも思っていなかったような大声を出して、携帯を取り上げていました。

「冷静になってちょうだい!私が悪かったのっ!
私が悪かったんです・・・・」

妻も必死なようです。

「違うな。お前だけが悪いんじゃない。お前達二人とも悪いんだよ。
聞こえてるかい、・・・岸部さん」

おもむろに岸部に問いかけました。

「・・・・・貴方には申し訳ない事をしてしまいましたが、何も妻にまで言わなくても・・・・」

相手はボソボソト答えてきます。
こんな時の人間の気持ちが分からない訳ではないのですが、随分と勝手な言い分です。

「俺達が壊れるのはいいが、自分達が壊れるのは嫌ってか。あまいな、おっさん。奥さんには何の恨みもないが、あんたのやった事を
知る権利はあるだろう。聞きたくない話だろうが、今後の為にも知っておいた方がいいと思ったのさ。
声だけしか聞いていないが、おとなしそうな感じのいい人じゃないか。あんたみたいな男と一緒になったのが可哀相だよ。
男としての責任をきちんと取って出直すんだな。俺はあんたが思っているほど甘くないぞ。覚悟しておけや。
これからは何か用事があったら俺にしてこい。携帯の番号は奥さんが知ってる。
雅子と一緒になるのが、責任の取り方だと言うんなら話は別だがな」

相手の奥さんに話してしまったのは成り行きでしたが、妻とこの男が一緒になるのを反対はしません。
内心は快くはないでしょうが、別れる手間が省けるとも心の何処かで思うのです。
離婚するにしても、そんな方法が私のこれからの人生にプラスにならないのは百も承知です。
でも、このまますんなりと事が運べば、どんなに楽だろうと思ってしまうのです。
携帯を切ってから何か言いたそうな妻を無視して新聞を見ている振りをどれくらい続けていたでしょうか。
家のインターフォンが来客を告げました。
妻が立とうとするのを制しモニターを見ると、岸部が立っています。
わざとらしく問いかけます。

「どちら様ですか」

「岸部です。夜分申し訳ありません」

「誰に用事だ?俺にか?雅子にか?」

「お二人に話があります」

来るだろうとは思っていましたが、いざ来られると面倒臭いものですね。しょうがなく今回は中に入れました。
リビングのソファーに座る男から言葉が発せられません。ただ俯いたままです。こいつ何をしに来たのか。
そんな時、岸部の携帯が鳴りました。その着信音は妻のものと同じです。
男が何気なく出したタバコも妻のと同じです。
この馬鹿嫁は、岸部にどれほど感化されてしまったのか?私も疲れてしまいます。



 逆転 15
俺は男だ! 10/5(金) 22:56:01 No.20071005225601 削除
「・・・・分かった・・・帰ってから話し合おう・・・」

相手は奥さんなのだと思います。何を話し合うのかは分かりませんが関係ないのです。
私はこの状況を早く終わらせて、さっさと眠りたいと思っています。
うつむきながらも深刻な表情で話し出さない男に焦れてしまいました。

「岸部さん、用事があって来たのでしょう?
まさか私の顔を見たかったなんて言わないでしょう?
黙っていたってしょうがないでしょうが。
せめてM方を好きになった家内の前では男らしく行きましょうや」

私の言葉に岸部は視線を上げました。
しかし、何か言うかと思っても言葉を発しません。
自分に都合のよい言い訳を考えているのか、男の妻に話した私に恨み事でも言い出そうとしているのか?

「・・・妻は離婚も視野に入れると言われました。私もこの年まで女性関係が何もなかったとは言いませんが、妻に知られたのは今回が
初めてです・・・・・」

重い口を開き始めましたが、また黙ってしまいました。今の電話は、最後通達を突きつけられたものだったのでしょうか?
この男の家庭の内情に興味なんてありません。

「相当うまく遊んでいたんでしょうな。羨ましいかぎりです。私は妻と一緒になってから一度もそんないい思いはしてないな。
そりゃぁ奥さんショックだったでしょう。それでも冷静になれば許してくれるかもしれないですよ。
何せ、貴方は人の妻をその気に出来る位に魅力がある人だ。
奥さんも貴方に惚れているんでしょう。
子供さんもまだ小さいし、離婚はないと思いますよ。
でもね、ばれたのが今回でよかったと思うよ。
俺はさぁ、あんたから慰謝料を貰おうなんて思ってないですし。
そんなもの今の日本じゃ幾らにもならないのは知っていますよ。
それに会社での立場も大した事ないって、こいつから聞いてるしね。
本当にうまくやってるよな。
痛かったのは奥さんに知れてしまったくらいか。俺も世渡り上手になりたいな。
まぁ、岸部さんも少しは困ってるようだから、一矢は報いたか」

私の妻も俯いて座っていますが、ときどき男に視線を送っています。
会社での雰囲気と違い、母性本能をくすぐられ守ってやりたくなったのか、女の複雑な感情は分かりかねます。
この二人を見ていると、私が岸部の立場なら何を思っているのだろうかと考えてしまします。
妻に密告されて来るつもりもなかった家に来たのは何故でしょう?
会社での立場はもう決まっているのですから、この場合は男の妻との関係修復に少しでも有利な事柄がないかと思って来たのではないでしょうか?私は鎌を掛けてみました。

「俺に金を払わなくてもいいが、責任は取ってもらうつもりはあるよ。あんたの家庭が如何なろうと知った事じゃないが、雅子は引き取って
もらう。離婚になれば本妻にすればいいさ。
そうじゃなかったら二号さんにでもしてくれたらいい。
あんたの責任は、こいつをちゃんと食わせて行く事だ。
それも今日からね。俺の言いたいのはそれだけかな。
雅子、支度をして来い。岸部さん、後は任せたよ」

これは思いのほか効いたようです。
黙りこくっていた岸部が慌て始めました。

「そっそんな事は出来ない!私にも生活がある!貴方は無責任じゃないのかっ!」

「そうだよ。無責任さ。俺は高級車には乗れないが、それでも中古車を買った事がないよ。他人の手垢の付いた物は嫌なんだよ。
こいつは初めから中古みたいな物だったが、俺には新車だったよ。だけど、あんたが手垢を付けたんだ。
それだけで俺は嫌なんだよな。下取りにだすよ。大切に乗ってやってくれや。中古だが只で手に入るんだ。文句を言われる筋合いはないと思うがな」

岸部と妻の顔色が何気に変わっています。

「あんたっ!人間を車には例えれないでしょう!雅子さんを、そんなふうに扱っているから浮気をされたんじゃないですか?
雅子は何時も、あんたの事をつまらない男だと言っていた。
女房にそんなふうに思われて悔しくないのか?私なら耐えられない。
だけど、そんな事を言う旦那ならしょうがないと思いますよ」

慌てる慌てる。男の慌てぶりが面白くてしかたがありません。

「おい雅子。お前そんな事を言っていたのか?俺を馬鹿にしながら乳繰り合うのは楽しかっただろうな。
好き放題言っていたんだろう。そんな時はベッドの上でだろうな。
楽しそうだな。二人の幸せそうな風景が目に浮かぶな。
あっ、そんな二人の間に俺はお呼びじゃないか。これは失礼しましただ。退散するよ。子供達も上にいるし、ここでこれ以上話をするのは
勘弁して欲しい」

私が席を立とうとすると、妻が叫ぶような声を上げました。

「貴方っ!貴方待ってっ!私が悪かったのっ!」

その悲痛な声を背中に、寝室へと向かいました。
さぁ、この二人は如何出てくるか?私はせせら笑っているのです。

寝室に入り何分も経っていませんがドアが叩かれます。
私はテレビにスイッチを入れてはいましたが、上の空で眺めていただけです。
そんなに大きな家じゃないので居間の気配は分かってしまうのです。
妻と夜の夫婦生活があった時代には、子供達が居間に降りてこないかと気を使わなければならかったくらいの家ですから。
それにしても、こんなに早く男を帰し此処に来るとは思ってはいませんでした。
男を帰す時には、妻が何か怒っていたようです。何を言っていたのかは分かりませんが。
私は妻があのまま家を出て行くとは思っていませんでしたが、出て行ってくれても構わないと思ってもいます。
それが無理なら、せめて今夜は面倒な事は避けたいのです。きっと明日も避けたいと思うのでしょうが・・・・

「貴方、少し話がしたいの。入ってもいいかしら?
私が悪かったのは認めています。
貴方の気持ちは痛いほど分かっています。
お願いだから話し合う時間を下さい」

今日、出来る事は今日済ます。決して明日には延ばさない。
そんな生き方をしてこれたなら、こんな厄介な日を迎えなくてもよかっただろうに。
それを避けていると何時か付けが回るのは分かっていても、日頃は流れに任せて生きてしまいました。
だけど、こんな日は自分の甘さが身に堪えます。自業自得と思っても、全て人のせいにしてしまいたい。

「何だ。まだいたのか。もう話す元気もないよ。悪いけど明日にしてくれないか。今日は疲れた」

また明日に延ばしてしまいます。何才にになっても性格は直らないものですね。

「私達の人生に関わる事よ。そんな話ってないんじゃないっ!こんな時くらい男らしく向き合って欲しいの」

間男に男らしくと言った私が、尻軽女に男らしくなんて言われるのは・・・あ~~~情けない。


逆転 16
俺は男だ!  4/30(水) 20:29:34 No.20080430202934 削除

私は腹が立ってしょうがありません。別れたいと思っている妻が不倫を働きました。
勝手な思い込みなのでしょうが、その相手も私よりも勝った男だとは思えないのです。
別れたいと思っているのですから、どんな相手と何をしようが如何でもいいはずなのに腹が立ちます。
頭の中は冷静なつもりでいるので、腹が立つ自分に釈然としないのです。
自分の心理を分析してみます。その感情は単に私のプライドを傷つけたからなのだと結論に至るしかないでしょう。
くだらない事ですね。知らないうちに私だって妻のプライドをどれだけ傷つけて来た事やら。
妻が男と逢瀬を繰り返していたのは、何も興信所に依頼する前から何気に気づいていたはずです。
ですから愛情を持てない相手が私に牙を剥いたからと言って、気にしなければいいのです。それだけでのはずです。
でも腹が立ちます。人間の深層心理は複雑です。
自分の事すら分かりません。
今ドアの向こうで、私に問い掛ける妻と向き合う気持ちになれないのは、こんな時はどんな対処方法がベストなのか気持ちの整理が出来ていないからだと思い知らされます。
こんな時にも危機管理がなっていないのは日本人のDNAなのでしょうか?

妻は昨夜、私に『私達の人生に関わる事よ』と寝室の前でほざいていましたが、結局ドアを開けずじまいで眠りに就いてしまったのです。
私はまた面倒を避けて通ったのでしょう。
浅い眠りの中で夢を見ました。夢の中で岸部の奥さんと話していましたが、相手の顔が見えません。
話の内容も記憶していませんが、何かボソボソト話していました。
これは私の潜在意識が奥さんに会った方がいいと言っているのだと思えるのです。

だるい身体をベッドから抜け出させ、洗面台に向かうと妻が何か話したそうな視線を向けてきましたが、私は無言でその横を通り抜けました。
顔を洗い台所に目を向けると、その背中が寂しそうです。
何を思い私は決して口にしない朝食の準備をしているのでしょうか?
私にある程度の責任があったとしても、行動を起こしたのは妻です。その背中に何の同情の念も起きません。
身支度を整えると、接点を持たないように玄関へと急ぎました。
慌てて妻が私の背中に声をかけて来ましたが無視です。
昨夜の男と同じ煙草を吸い、同じ呼び出し音の携帯を持つ女の心に苛立ちが収まらないのですが、そんな自分にも腹が立ちます。
別れを希望しているのなら、そんな事は如何でもいいのに。
私は本当に別れを希望していたのか?
自分の気持ちさえ掌握出来ていないのに苦笑してしまいました。
妻と顔を合わせる事を拒否して出社したので、当然早い時間に着いてしまいましたが、この静かなオフィスに落ち着きを取り戻します。
そんな気分にしたっている時に、同期の友人が声をかけて来ました。
余程、自分の世界に入り込んでいたのでしょう。声を掛けられるまで、友人が入って来たのにも気づかない私でした。

「朝から元気がないな。まぁ、しょうがないか。今夜飲みに行くぞ」

『しょうがないか』と言った意味も分からずに、岸部の奥さんにコンタクトを取る事に気が行っている私は、断りの声を出す前に思いもしない彼の言葉に唖然とします。

「千秋からある程度の話は聞いたよ。今夜行くぞ」

呆然と見上げる私に、友は優しく微笑みその場を後にして行きました。家庭内の実情は他人に知られたくはありません。
しかし、思い詰めている時には話が別なようです。
自分だけで全て抱えるのは辛いものです。それだけ自信を持てない私なのでしょう。
この時、肩の重荷が少し軽くなる感じを覚えた私でした。



逆転 17
俺は男だ! 4/30(水) 20:49:40 No.20080430204940 削除
生きていると色々な雑念が湧き起こるものるものですが、悲しいかな仕事をしている時だけは忘れていられるのです。
その日も友との待ち合わせの時間まで、ほんの一瞬だったように
記憶しています。
残業も程々に同僚との待ち合わせ場所に向かいました。
その店は何時も通りの賑わいで、奴を目で探すとカウンターでもう日本酒を一杯やっています。

「待ったか?」

私の声にニタリと笑い、

「待った、待った」

その受け答えが私を楽にさせるもので、ほっとしてしまうのです。
お互いに馬鹿話をしながらも、本題を切り出すタイミングを計っていました。
こいつは何気なく話を本題に乗せてきました。

「・・・大変なようだな。武勇伝は千秋から聞いた。お前、やんちゃな所は昔と変わっていないんだな」

「やんちゃって何よ。俺もおとなしいものだぜ。もう年だからな」

どんな行動を言われているのか分からない私は、曖昧な返事を返しました。

「う~~ん。雅ちゃんの職場に乗り込んだって。たいした度胸だ。俺なら出来ないな」

ごく自然に話し掛けてきます。

「そんな事まで知っているのか・・・・俺も少し頭に血が上っちゃてな。思い出すと心臓がバクバクするよ。
挙句の果てに相手の奥さんに電話も掛けたよ。何か女みたいで嫌になっちまう」

友はやはり私達夫婦の出来事を知っているようです。もう格好付ける何ものもありません。

「雅ちゃんの相手は岸部だって?それが以外だったよ。まさか、お前がそんな目に会うなんてな。
・・・・あの会社は、それなりの信用がある。それでも二代目の評判は良くないな。
先代は人望も厚かったそうだから、ここまでの会社になったのに、ぼんぼんは甘いからな」

「岸部を知ってるのか?」

意外な言葉でした。

「何度かうちの会社に来てるぜ。俺は仕入れが専門だから来るたびに会ってるよ。うちと取引をしたっがているのに、お前の女房に
手を付けたら元も子もないな。もう少し、まともな男だと思ったのに」

話によると、二代目社長の人柄と、その方針からも得意先の反感を買い、業績は芳しくなくなって来ているとの事。
それでも、先代の顔で何とか表面上の体裁は保たれていますが、それだって、何時までもは続くはずがありません。
そこで当社に納入し世間的な信用を付けると言う手段に打って出たようですが、流石に同僚は調べ上げていました。

「少し苛めてやるか」

そう言ってニヤリと笑った彼が、どんな方法を考えているのかは分かりません。

「なあ、女の悩みは女で解決するさ。
今夜は昔を思い出して遊ぼうや」

良い酔い方をしていたのも手伝い、その後あまり高くないクラブ等、何軒か梯子をし店の女の子に声を掛けましたが全て失敗。
まあ、おいそれと持ち帰りの出来る年でもないし、身分でもないのでしょう。
それでも久し振りに楽しい夜を送れた事に、友に感謝です。

かなり遅い時間の帰宅だったと思いますが、妻は起きて帰りを待っていました。
酔った頭の中には、女の子と何も出来なかった悶々とした感情があったのでしょう。
『女の悩みは女で解決』同僚のその言葉が『妻の悩みは妻で解決するさ』そんなふうに頭の中を駆け巡り、会話を求めているのも
構わずに強引に寝室に連れ込みます。
荒々しく服を剥ぎ取られ少し抵抗をしましたが、諦めたようです。
しかし、その夜の彼女は私の行為が終わるまで何の反応も示さないよう、じっと耐えているように感じました。
そんな態度に程よい酔いも急に覚め、虚しさが襲うのを抑えられません。

「悪かった。如何にかしてたな」

身体から離れ背を向けると、その気持ちを察したのでしょう。

「私こそごめんなさい」

私の背中を何度かさすり、静かに寝室から出て行きました。
妻の後姿を見る事もなく、私は背を向けたままです。
彼女と歩んだ人生で、後姿をまともに見た事があったのかな。
責任は一人だけに押し付けるものでも、背負うものでもないのでしょうね。
もしも時間を巻き戻せるなら、二人が信頼しあえる家庭を築く努力が出来るのかな?そう、自分に問い掛けてみます。
・・・・答えは出てるよな・・・・妻の不倫を盾に取り、それを責めて離婚に持ち込もうなんて姑息な真似はやめましょう。
それは妻のためでも家族のためでもなく、私自身のためにです。
惰性で生きて行くのはやめ、これからは自分の意志を第一に生きて行こう。人生が終わる時に、後悔がないように。



 逆転 18
俺は男だ! 4/30(水) 21:45:12 No.20080430214512 削除
妻の声に起こされ時計を見ると、もう何時もの起床時間をとうに
過ぎています。横に懐かしい優しい笑顔があります。こんな妻の顔を見るのは何時いらいでしょうか。
そんな事に気付くのは、しばらく後なのですが。

「やばい。遅刻する」

私は飛び起きました。

「貴方、今日は休みじゃないの?」

そうでした。だから昨日はしこたま飲んだのでした。
それに気付いた私は、また掛け布団に潜り直しました。
布団の中で夜の出来事が頭をもたげるのです。
妻の相手が岸部だったら、どんなふうに受け入れたのだろうか?
身体は私よりも馴染んでいる相手です。それなりに燃えたのかもしれません。
そんな考えで素直になれないのは、嫉妬なのかもしれないと思うと不思議だなと思うのです。

「もう少し寝かせてくれ。二日酔いなんだ」

「分かったわ。朝食は何か食べたいものあるかしら?」

「何もいらない。腹が減ったら何処かで食うから気にするな」

もう食べないと決めた以上は断るのです。絶対に食べません。
それが妻への、ささやかな抵抗になるんじゃないのかと思うのです。
私の気持ちが通じたのか寂しげな笑顔で私を見つめながら、掛け布団を直してくれました。

「俺が起きたら話がある。約束があるならキャンセルしてくれ」

強い口調ではありませんが、意思のある口調で伝えました。

「分かってます。私も話があるの」

穏やかな中にも意思を持つ語り掛けです。
浅い眠りでしたが起きるともう昼近くで、ゆっくりとベッドを抜け出しました。
居間で見るでもなくテレビを見つめてる妻がいます。
私の姿に気付き断ったのに昼食を取るかと聞いて来ましたが、返事はやはりNOです。
しかし今の私の姿を彼女は如何見ているのでしょうか。
パジャマ代わりに着ているよれたスウェットに寝癖の付いた髪の毛。
仕事場で颯爽としている岸部を見ている妻には、さぞ魅力のないことでしょう。
でも、男なんて家の中ではこんなものでしょう?あの男だってたいした変わりがないと思うのですが、何か気が引けます。

「昨日は悪かったな。少し飲みすぎたよ」

「私こそ御免なさい。急だったので・・・・」

「いいんだ。あれでよかった。
夫婦と言えども心の絆を無くした者同士が戯れるものじゃないよな。本当に酔っていた」

次に来る私の言葉を断たんとするように妻が声を発します。

「ねぇ、皆で温泉にでも行かない?前のように家族っていいなって思いたい」

さすがに私も、この唐突な言葉に眠気も吹っ飛びました。
しばらく間を置いてやっと声がでます。

「話があるって言ってたのは、その事か?」

「・・・・・・・・・・」

「普通さぁ、家族っていいものなんだよ。
思いたいんじゃなくて普通にいいものなんだ。
お前は如何思っているのか知らないが俺はそう思うんだ。
そりゃあ不平不満もあるだろうさ。それでも掛け替えがないのが家族なんだろう。それについては俺も悪かった。
俺の事しか考えていなかったものな・・・・その反省は次の人生に生かしたいと思ってる・・・・別れよう・・・・勝手でごめんな」

虚ろに見つめていた瞳が潤みだしています。男と女の別れには修羅場が付き物なのでしょうが私は苦手なのです。
その場にしゃがみこみ両手で顔を覆う姿に、ジェットコースターに乗った時のように胃が悶えてしまいます。
妻の頭を撫ぜて、その場に立ちすくむのですが本当はこの場から逃げたい気持ちでいっぱいなんです。

「・・・私が貴方にした仕打ちを思えば、そう言われてもしょうがない・・・でも・・私は皆でここにいたい・・・
少し時間をちょうだい・・・心の準備が・・・」

女はずるいよな。こんな時は泣けばいいんだものな。泣かれる男はたまったものじゃないよ。

「心の準備か。確かにな・・・大変なら俺がしばらく家を空ける。けじめを付けるなら早いほうがいい」

だいたい準備って何があるのでしょう。自分の生活設計か?男との今後の事なのか?
生活なら当初は私が援助してもいいのですが、男との事は関知するものではありません。
これほど長く続いた関係を直ぐに断ち切れるものではないと、この年まで生きた私には分かります。
身体の関係を結んだ男と女は、心の契りも出来てくるものでしょう。

「なるべく早くけじめを付けてくれ」

「・・・・子供達は?何て言えばいいの?」

「もう大人だよ。俺から話すさ。その後はあの子達が決めればいい」

妻はしゃがんだまま立とうとしません。肩が小刻みに震えているのは、まだ泣いているのでしょう。
彼女の気持ちを信じるなら、このままの生活もあるのかもしれない。
でも私は後戻りはしません。如何であれ俺は男だ!そう叫びたい。
これから、まだまだやらねばならない事も山積みですし、一歩も後戻りは出来ません。
この一連の現実は自分自身にも責任があったのでしょう。
しかし、妻と男との関係は長すぎるし、その期間が贖罪であると思う事にしました。
離婚願望が強かったくせに、いざと言う時に躊躇してしまった。情けないとも思いましたが、いくら気持ちが醒めてると言えども今までの夫婦の歴史があります。
当然に情がまったくないわけではないのです。でもいいです。お互いの幸せなんて言いません。これからは私と子供達の幸せだけを考えて行きます。
ましてこれから、如何努力しても彼女との生活は苦痛でしかないと思えるのです。
不倫されたのは当然面白くはありませんが、本当はそれほど堪えてもいない自分がいるのは、愛などはもうないと悟っているのです。
私と子供達が幸せなのが、彼女のためだと思いましょう。

『さようなら。ありがとうね』

心の中で妻に声をかけましが、やっぱり私も涙が出そうです。
何度も何度も期待していた時が近づいたのに、私の心の中は複雑で困ります。

「今は話す気分じゃないだろう?悪いけど少し出てくる。話したい事がまとまったら夜にでも、また話し合おう」

不動産屋にでも行って、家賃がどのくらいするのか見てこようか。また金がかかるな。


 逆転 19
俺は男だ! 5/1(木) 19:59:10 No.20080501195910 削除
ふらりと家を出て近くの不動産屋の前の張り出しを見ると、思っていた以上に高いものです。
その中で何とか手頃な物件がないかと探すと、それなりにあるものですね。
1ルームでトイレとお風呂があれば、如何にか不自由はしないと思います。
今の家庭は非常事態なのですから、贅沢は言ってられませんでしょう。
何軒かの店でこんなものかなと納得した物件を見つけました。
現地に行って見たわけではありませんが、そんな事は如何でもいいのです。少しでも早く行動に出たい。
そこそこ家から近くて、なるべく安ければ助かるのです。
店の中に入り思い切って手付金を払いましたが、恥ずかしい話し5000円だけです。手持ちがそれだしかないのですから情けない限りです。

夕方近く家に戻ると、居間から娘達の華やいだ声が聞こえてきます。
私の帰宅に気が付いた長女が笑顔で話し掛けてきましたが、そこに妻の姿はありません。

「お帰りなさい。お母さんと会わなかった?探しに行くとか言って出て行ったわよ」

私が何処へ行くのかも知らないで、如何探すと言うのか。また探しに来て何をしようと思っているのか。
私には分かりませんが携帯と言う便利な物があるのにと思ったとたんに持たずに出たのに気付きました。
部屋に行き携帯の着信履歴を確認すると、確かに妻からのものが何通もあります。

居間ではまだ話が弾んでいるようで、私が入ると長女が笑いながら話を振ってきました。

「ねぇ、ねぇ、お父さん。この子、彼氏が出来たんだって」

「あ~ぁ!お姉ちゃん!内緒だって言ったのにぃ!」

その話を聞いた私の視線が少し険しかったのか、長女はからかってきました。

「あれぇ、お父さん妬いてるの?」

そうなんです。次女の彼氏に敵意を感じたのです。その感情は妻が男と関係を持った以上に嫉妬したのでした。
妻への感情よりも娘への嫉妬心が強いのはどんなもんなんでしょう?世のお父さん達は如何ですか?

「そっそんな事ないよ。そうか、青春してるのか」

冷静になった時に、自分のそんな時代に思いを馳せますと、私にもそんな時があった。
でも流れに任せて、その場その場で適当に生きてきただけで、本当に心から人を愛した事があったのか?
あの時の彼女らは今、如何してるのか。
私はこの人でなければ駄目なんだと思って結ばれたのか?
惰性の人生が産む結果は初めから見えていたのかも知れませんね。
だけど御見合い結婚で幸せな人生を送っている御夫婦もいらっしゃる。
私は心から愛して、この人のためならどんな犠牲もいとわない。
そんな気持ちで結婚と言う人生の一大事に立ち向かうべきだったのです。
そのへんが大いに欠けた未熟者だったと素直に認めざるおえないですね。

「広く浅く沢山の男友達と付き合って、この人と思うのを探したらいいよ」

良いアドバイスなのかは分かりませんが、一応は親として何かを言いたいと口から出た言葉です。

「いやよ、そんなの!彼は素敵なの!」

次女はむきになって言い返してきました。
はい、はい、好きにしてちょうだい。
今時の子に何を言っても聞かないでしょう。
そんなこんなで賑やかな雰囲気に任せて、私の決意を子供達に伝えます。

「あのな、お父さんと、お母さん、しばらく別々に暮らそうと思うんだ」

「・・・・・・・・・・・」

雰囲気が一変してしまいました。妻の取った行動を、この子達は知っています。
私達夫婦に起こりえる事態だとも感じていたのだろうと思いますが、それでもショックなのでしょう。

「少しだけ?また一緒に暮らすんでしょう?」

長女が次女の気持ちも伝えてきました。

「・・・それはないと思う・・・」

色んな事を伝えたいと思うのですが、それだけ言うのが精一杯です。
そんな時に妻が帰ってきました。私と子供達の話の内容は分かっていないのでしょうが、微妙な雰囲気には気付いたようです。
神妙な表情で私達と同じ席につきました。まずは乗り越えなければならない第一の関門です。
『俺は男だ!俺は男だ!!腹に力を入れて立ち向かえ』
適当にその場を濁して逃げてきた自分自身に言い聞かせます。



逆転 20
俺は男だ! 5/2(金) 07:44:54 No.20080502074454 削除
家族皆が私を注視しています。

「お父さん、部屋を借りる事にした。今度の休みに間に合えば引越ししたいと思ってるんだ」

子供達の方だけを見て喋り出しました。

「・・・・・・・・・」

誰も口を開く者がいません。私の意思の強さが滲み出ていたからなのでしょうか?
しかし条件が少し変わってしまったのです。

「私が原因だから私が出ます。ただ離婚は少し待って欲しい・・」

子供達も妻が出る事に異議はなく、親の離婚についても心の準備が必要だからと次女が主張するので飲むしかありません。
その次女を嬉しそうに見つめる妻が少々気にはなりましたが・・・
それでも、こうすんなりと事が進むとは思っていなかったので了解しました。
下準備が整っていたとは言え、こんなにスムーズに行くとは思わなかった。それが本心です。
私が決めてきた所でいいのか如何か下見をさせましたが、それでOKだとの事で引越しまでに時間は掛かりませんでした。
出て行こうとする妻に、娘達の目を盗んでこそっと渡した離婚届には、私のサインが書かれています。

「気持ちの整理が出来たら提出してくれ。出したら連絡してくれな」

その言葉に目を伏せ返事はありませんでした。その態度に子供達の了解が出ても第2関門を迎えるのだと覚悟したものです。
あの日、次女を見た嬉しそうな表情と、この日の妻の表情に離婚には中々応じまいと悟ったのでした。
離婚は人生の中でも大イベントだと思いますが、今の時代に珍しい事でもありません。
それに抵抗する妻の真意はいかばかりなものなのか?

妻の居ない生活は、私には日常と何の変わりも感じなかったのですが、子供達には違ったようです。
特に次女は寂しそうで可愛そうに思います。何の罪もないこの子達に辛い思いをさせているのは、明らかに私達夫婦の責任です。
早く帰宅した時に食事の用意をしてくれている次女の背中を見ると、妻と2人で台所に立ち私に今回の事を水に流せと訴えたそうにしていた日を思い出します。

『ごめんな』

心の中でそう呟くしかない。これはこれで結構辛いのです。
ただ居場所も知っているのだから、会いに行けばいいし、もう大人なの君に、お父さんがとやかく言う事はないよ。
しばらく経つと、その通り行き来はしていたようです。私に気兼ねしてか、はっきりとは言いませんでしたが、
出て行ってから1日に1回は必ず連絡を取ってきていた妻から聞いていました。
何もなかった夫婦のように、

「食事はちゃんと出来てる?不便な事があったら何時でも行くわよ」

と新婚当時のような優しい口調が携帯の向う側から聞こえてきます。私も敢えて離婚届の話はしません。
それが尚更電話をしやすくしたのか、次女が会いに行った時には少女のように弾んだ声で嬉しそうに話すのです。
それでも次女しか会いに来ないのがせつないようですが。
それはそれで、まだ家族の絆が切れていないのを喜んでいるのかもしれません。
私は私で羽を伸ばし、帰りが遅くなる日もしばしばです。
たがが外れた私は1人者のような振る舞いでした。
境遇を気に掛けてくれる、あの同僚と飲み歩き、奥さんからクーレムを付けられる始末でしたし、娘達にも小言を言われます。
取引先のあの女性とも合コンまがいの飲み会を何度も催していましたが、ある時に同僚が軽口を叩きました。

「君達お似合いじゃないか。こいつ半分独身のようなもんだ。唾を付けるなら今だぞ」

「ばっ馬鹿言うな。俺はよくても此方に失礼じゃないか。ねぇ、ごめんね」

彼女は微笑むだけです。
この軽口が運を運び、その日のうちに彼女のメールアドレスをゲットしたのです。
それでも結婚以来、妻以外の女性との付き合いがなかったものでメールする勇気が持てなかっのです。
何の連絡もして来ないのに業を煮やしたのか、最初のコンタクトは彼女からです。と言っても、挨拶代わりの他愛のないものでしたが。
それでも何かウキウキするものですね。嬉しかったなぁ。




 逆転 21
俺は男だ! 5/3(土) 16:30:08 No.20080503163008 削除

久し振りに気分よく遊び歩く私に、子供達が釘を刺してきました。

「たまには、お母さんの所へも顔を出して来てね」

この言葉は結構重いんです。すっかり独身になったつもりの私を現実に戻します。
子供が居なければ、このままスンナリと行くかもしれないのに、そうは問屋が卸しません。
しょうがなく妻のアパートに出向きますが、彼女の車がないのをいい事に直ぐに立ち去る私でした。
如何して居ないのかなんて気にも止めないのです。
実はこの頃、例の彼女と交際を出来るのではと予感めいたものを感じていたのが私にそうさせたのです。
あくまでも私の希望的予感でしかありませんがね。
居ないのだからしょうがないと自分に言い訳をしても、子供達には納得が行かないようです。
男との繋がりを連想させてしまうからなのでしょうが、それは妻とのやり直しを望んでいるからなのかと思うと重い気持ちになってしまいます。
口には出さないまでも、離婚届を少しでも早く提出してくれればと望んでいるのですから。
そんな中途半端な日々を送っていた時分に、携帯に見慣れない番号の着信がありました。

「・・・岸部の家内でございます・・・突然お電話して申し訳ありません・・・今よろしいでしょうか・・・」

言いにくそうに話す相手に、私も頓珍漢な受け答えをしてしまいます。

「あぁ、どうも。ご無沙汰しております」

もう少し気の利いた事を言えなかったものか。

「・・・こんな事を、お願いする立場じゃないのは、重々承知しておりますが・・・」

「何かありましたか?」

岸部が会社での立場が危うくなり、今度の事を何とか穏便にすませて助けてくれないか。
そんな内容の事を申し訳なさそうに、おどおどしながら懇願するのでした。
助けてくれと言われて私が納得したところで、はいそうですかと岸部の立場が好転するとは思えないのですが・・・・
世の中には示談が成立し刑が軽くなったなんて話をニュース等で耳にしますが、今回の件はそうは行かないのではないかと思います。
しかし岸部の奥さんにしてみれば、何かしないといられない気持ちなのだろうと予想出来るのです。
これまでは、ある程度の収入があり不自由のない生活を送っていたものが全てなくなってしまう。
幼い子供を抱えて、これからの人生に不安を感じるのは当然です。
まして岸部の年齢を考えれば、今以上の収入を得るのは不可能でしょう。
それでも一生懸命働けば何とか食べて行けると思うのですが、人は今の立場に見合った生活を送っているのです。
その生活が一変してしまうのは誰だって不安なものだと思うのですが・・・・・

「申し訳ないが、今はそんな気持ちになれないのです。それに私が水に流すと言ったところで御主人の立場が変わるとは思えない。
普通の会社は、そんなに甘いものではないと思います。本当に申し訳ない」

私の言葉にたいそう恐縮しながら電話は切れました。
前回同様に後味の悪い思いをしながらも、岸部に何があったのか気になります。妻も知っているのか?
おそらく同僚の画策なのではないかと、内線を繋ぎました。

「俺だ。岸部のかあちゃんから電話があった。あいつ、危ないんそうだな。何かしたのか?」

「そうか。そんな話になっていたか。今そっちに行くよ」

程なくしてやって来た奴と休憩室に入り情報を交換します。
私は奥さんとの電話での内容を話し、それを聞いてから、これまでの経過を伝えてくれました。

「岸部はうちに飛び込みでやって来たんじゃないんだ。俺は部長から引き継いだので事情にうとかった。
その辺はお茶を濁されてたんだが、ある業者の紹介なんだよ。そこが部長とじっ魂なんでな。詮索はしたくないが何かあるんだろう。
それでな、お前の名前は当然出さないが、こんな話があると言ったんだよ。部長は以外といい男だぜ。あんまり好きな奴じゃなかったけど親分肌だな。
うちの社員を馬鹿にするのは許せんって電話してたぜ。そんな事なら紹介者だって立場がないさ。俺はそこまでは知ってるんだが、その後は耳に入っていないんだよ」

「ふ~~ん。そんな話になっていたのか。お前よぅ、もっと密に連絡してくれよ」

「済まんかった。ちゃんと決着を付けてからと思ってたんでな」

「感謝してるよ」

何処まで真剣に私の事を思って行動してくれたかは分かりませんが、約束を守ってくれたのは事実です。
それから何日もしないうちに話が急発展したのでした。
外回りをしていると携帯に着信があり、直ぐに戻って来いと言われ、部署に帰ると同僚が私の席に座っています。

「ちょっと来い」

言われるままに会議室について行き話を聞きました。

「あいつの会社の会長が来る。お前にも会いたいそうだ。賽は投げられたな」

第一線を退いた会長のお出ましが何を意味するものなのかは、その時の私には分かりませんでしたが、大きな変化を感じたものです。
だけど妻を寝取られた男がどんな間抜け面をして出て行けばいいんでしょうか?

逆転 22
俺は男だ! 5/11(日) 21:15:41 No.20080511211541 削除
待機してろと言われ手持ち無沙汰にディスクに座っていると、お呼びが掛かりました。
来賓室に入いり真っ先に目が行ったのが貫禄の老人でした。
部長と同僚が居るのにオーラを放つ老人が異質に目立つのでした。
中小企業とは言え一代で会社を築いたこの男の迫力は、会社の看板で生きている私等とは比べ物にならないのです。
その老人が立ち上がり最敬礼で出迎えてくれましたが、それを見た部長が私に着席を促しました。

「仕事中にお呼び出しして申し訳ないです。この度は本当に済まんでしたのぅ」

軽く会釈をし席に付いた私は、無言でと言うより言葉が出ずに相手と向き合いました。
私がここに入るまでの間に、ある程度の進展があったのでしょう。

「あの会社の会長さんだ。今日は君に詫びたいそうだ」

部長が紹介しましたが、誰だかもう分かっています。

「今回の事は弁明の余地がないです。息子を社長にして会社を任せたがまだ早かった。
そうは分かっても、子供は可愛いものです。きっと一人前になってくれると思っておったのですが。
何かと問題を起こしてはおったが、わしも若い時はそっちの方が盛んだったので、ついつい見ない振りをしてしまった。
それでも会社を立派に運営してくれれば目をつぶれるが、今回の事はのぅ・・・・
これは申し訳ない。年寄りの愚痴を皆さんに聞かせてもしょうがありませんでしな。
今回の件も御社を紹介してくれた社長から聞きまして、わしは飛び上がりました。
会社の恥を晒すだけではなく、御社と紹介者の顔に泥を塗るような恥知らずな真似をするようでは、もうお終いじゃ。
幹部連中には、それなりのけじめを付けさせるつもりでおります。もちろん息子もです。
今後はわしが老体に鞭打って先頭に立ちます。一からやり直し信用を回復しなければなりません」

老人が話した内容は大体こんな事だったと記憶しています。
強い個性に当てられ話しが頭の中に入って来なかったと言うのが本当のところなのですが・・・
会長の御出ましで、岸部の首も風前の灯火なのか?それで奥さんからの電話だったのでしょう。
しかし、男なら自分から掛けて来いちゅうの!本当に情けないやっちゃ。
帰り際に老人は封筒を私に差し出しました。
躊躇すると部長が取っておけと目で合図します。
中身が何なのかは想像がつきます。それが如何言う意味なのかを図りかねて躊躇したのです。
そんな私の気持ちを察したのでしょう。小声で老人が言います。

「当社からの誠意ですが、わし個人からの気持ちも入っております。これで全てを水に流してくれるとわ思わんが、少しでも気持ちが納まってくれればと思いましてな」

岸部に対する慰謝料は勝手にしろ。しかし会社にはこれで勘弁してくれとの事でしょう。
それを部長が受け取れと指示したのは、私にそれで納得しろと言っているのです。
会社同士の取引は、これで成立したと言う事か・・・・
サラリーマンのせつなさです。私も食べて行かなければなりません。社会とはこんなものなのでしょうね。
老人を見送り終わり、部署に戻ろうとする私の肩に部長がに手を乗せ、

「色々あったんだな。生きるって事は山あり谷ありか。それにしても昔のプレーボーイが情けないぞ」

激励とも慰めとも付かない事をニヤリと笑いながら掛けて来ました。
同僚も笑いながら、

「幾ら入ってる?今度おごれよ」

封筒を空けて見ると、それなりの額面の小切手が入っています。
景気のよい時のボーナスを何倍かにした額です。正直これはラッキーだ。
お金は幾らあっても困りません。子供達にも掛かるし・・・・
その時は有頂天でしたが、妻に掛けている経費が頭をよぎり、この金でチャラに出来れば随分楽だと思い付いたのです。
膳は急げだ。少しもったいないような気もしますが、これで卒業してもらおう。
一旦家に帰り車でアパートに向かうと、見慣れた軽自動車が停まっています。

「今日は居るな」

部屋の前でチャイムを鳴らしますが出て来ません。部屋には明かりが点いています。
近所に買い物にでも行ったのだろうと思い珍しく待つ事にしました。目的があると我慢出来るものです。
狭い駐車場なので一旦車を動かし、部屋のドアが見え易いところに停め直しました。
ナビをTVに変え、彼女とのメールをやり取りしながらどのくらい時間を潰したでしょうか。
駐車場に1台の車が入りヘッドライトを消しました。住人の車だろうとちらっと目をやると男と女が乗っているようです。
目を凝らすと女は妻に間違いありません。そして男は岸部。
如何した事でしょうか、血圧がどんどんと上昇します。
私はヘッドライトを点灯し、わざと相手の車の中を照らすように発車させます。
照らされた車内には男と女が重なっているようなシルエット。
当然に彼女達は此方を見るでしょう。車内を照らした車は、妻の見慣れた車、覚えているナンバー。
そして車は停まらず駐車場を出て行きます。
ルームミラーに慌てて私を追いかける妻の姿が映っていましたが後の祭りです。
妻から必死の携帯が鳴り止みません。帰路の間にどれほど携帯が鳴った事か。


--------------------------------------未完-------------------------------------

逆転
私は女よ! 8/14(木) 13:13:18 No.20080814131318 削除
大変申し訳有りませんが、この話は未完のまま終わります。
そもそも、このストーリは今の妻である私に贈られたものでした。
彼が再婚を決意してからも、私は前妻の事を愛してるんじゃないかと疑っていたものですから、このHPに投稿を開始したのです。
俺の気持ちが書いてあるから、少しマニアックな所だけど読んでくれよと言って笑っていたのが懐かしい。
彼は強い人でしたが、病気には勝てずに逝ってしまいました。
作品は一様完結までが打ち込まれていますが、私は悲しくてこのまま終わりにしたいと思っています。
本当に愛していたから切ないです。応援してくれていた方々に感謝いたします。




私は女よ!さん
与太郎 8/15(金) 12:03:14 No.20080815120314 削除
そうだったのですか・・・・・何と申し上げて良いやら言葉に成りません。勝手な話をしていて申し訳有りませんでした。

それにしてもそんな現実があったとは・・・・人生、先が見えないドラマそのものですね。貴女は多分20話に登場された女性ですね。その後、俺は男だ様との愛を育まれて、再出発されていたのですね。
辛い思いをさせてしまい申し訳有りませんでした。まだお若いかと思いますが、どうか新しい人生の灯りを見つけて下さい、影ながら祈っております。



私は女よ!さんへ
玉置 8/16(土) 01:31:32 No.20080816013132 削除
一つだけお聞かせください。二人の娘さんはお元気なのですか?


私は女よ!さんへ
OPU 8/16(土) 00:04:07 No.20080816000407 削除
突然更新が途絶えたのはそういう事だったのですね。
俺は男だ様は律儀な方でしたから何かあったのだろうとは思っておりました。

投稿の中で入院していた事や、人生を反芻している事を書いておりましたので
かなり切羽詰まった状況である事は想像に難く無く、更新を要求する事を躊躇っていました。
このまま更新が無くなってもそれは仕方が無い事だとも考えて。


逆転と言う作品はあなただけの物ですから大事にされてください。
俺は男だ様のご冥福とあなたの幸せをお祈りします。



玉置さん
私は女よ 8/17(日) 21:05:39 No.20080817210539 削除
今は父親がいなくなり元気とは言えませんが、時が解決してくれると信じています。
彼女達とは色々ありましたが、しっかりした人達ですから、ちゃんとした人生を歩んでくれると思います。


私は女よ!さんへ
コーナン 8/20(水) 20:40:13 No.20080820204013 削除
私は「逆転」のファンの一人ですが。
今日、俺は男だ様の訃報を知りまず唖然としそれから徐々に驚きが沸きあがって来ました。
入院したりして体調がお悪いようだと聞いていましたが、「そうだったのか・・・・」と思いました。
俺は男だ様は感想BBSでのお答えからは真面目で律儀な人柄を感じ、
「逆転」本編からはご本人の熱く強い意志が読み手である私にもぐいぐいと伝わってきて、読みながら本当に拳を握り締めていました。
あのようなことがあった俺は男だ様は壮烈な生涯だったのであるなと思う一方、本当に惜しい人を亡くしたという思いでいっぱいです。

俺は男だ様のご冥福と二人の娘さんそして私は女よ!さんの幸福を心からお祈りさせていただきます。

お辛い中、本当に知らせていただきありがとうございました。



私は女よ!様
通りすがり 8/21(木) 21:42:37 No.20080821214237 削除
“俺は男だ!様”が亡くなられたのを今日知りました・・・。 
私も「逆転」のファンでした。PCが壊れてしまい暫らく、ここのサイトを見ることが出来なかったのですが、久しぶりに来て驚きました。更新がずっと止まってしまったので、どうしたのかな? と思ってたんですが・・・。

俺は男だ!様は、私は女よ!様と再婚されていたのですね、二人して幸せな人生を歩んでいかれるはずだったのに・・・。
娘さんや、私は女よ!様 お辛いでしょうね・・・。

「逆転」の名作を、ありがとう御座いました。
“俺は男だ!様”のご冥福と、これから皆様が幸せに生きていかれる事を心より、お祈りいたします。

Last Update : 2008年12月15日 (月) 8:59